「遺伝子診断の理解のために」の日本語版を制作するにあたり

  21世紀は遺伝子の時代といわれています。すでにヒト全ゲノムの読み取りも終わり、その応用研究がスタートしました。
 国立病院四国がんセンターが対象とする「がん」は、この遺伝子の変異の積み重ねによって引き起こされることがわかっています。
私たちは、生きている限り常に遺伝子変異との戦いを続けています。それは、私たちの体を形づくる細胞が増えるときに、ある一定の確率で引き起こされる遺伝子の読み間違いから、タバコ、化学物質、紫外線などの外部からの刺激によって引き起こされるものまで様々です。それらの刺激の受け方は生活環境によって影響され、それゆえ「環境要因」といわれています。私たちの体は、このようにして生じた遺伝子変異に対して、変異遺伝子を修復したり、遺伝子変異を受けた細胞を取り除いたりすることによって、遺伝子変異を持つ細胞が増殖しないようにしています。一方、遺伝子には個性があることが知られ、その一部が「がんのなりやすさ」という個性として表現されます。この個性は、親から子供へ遺伝的に受け継がれていきますので、「遺伝要因」といわれています。がんは、この「環境要因」による遺伝子変異と「遺伝要因」として持つ個性の複雑な組み合わせによって引き起こされます。
 家族は、血のつながりがあり、一緒に生活することから、「遺伝要因」「環境要因」をともに共有しています。したがって、家族の中に複数のがん患者さんが発生する場合があります。このような場合、「遺伝要因」と「環境要因」ががんの発症にどのように関わっているかを判断することは非常に困難ですが、がんの発症を予防する上において重要なことです。本書で紹介する「遺伝子診断」は、この内の「遺伝要因」の関わりを明らかとするために検討されているものです。
 当院では、「遺伝子診断」を皆さまにご理解いただくため、米国国立がん研究所が中心となって製作した「遺伝子診断の理解のために」という小冊子を、同研究所の許可を得て翻訳いたしました。本書が皆さま方の遺伝子診断の理解の助けになれば幸いです。
 尚、本書の内容に関するお問い合わせは、当院「家族性腫瘍相談室」までご連絡ください。


平成15年9月   
国立病院四国がんセンター  
 院長 高嶋成光  

家族性腫瘍相談室 平家勇司  
現在は、国立がんセンター中央病院および国立がんセンター研究所所属)
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