5.変異遺伝子はどのように疾患を引き起こすのか?

 健康な体は数千個ものタンパクが相互に作用し続けることによって成り立っています。言いかえれば、変異のない遺伝子の産物である適切な機能を持った蛋白が、適切な量、適切な場所で作用し合って健康を維持していると言えます。遺伝子にはさまざまな変化(変異)が起こります。最も多い遺伝子変異は、DNAの中の塩基の1つが入れかわるものです(1塩基置換(18))。つまり、単語の綴りを間違った状態です。そのほか、変異には塩基の欠落(1塩基欠失(18))や挿入(1塩基挿入(18))といった形があります。また、DNAのあるまとまった領域が複数回繰り返して挿入されたり、消失してしまう場合もあります。

 遺伝子変異があっても産生されたタンパクの構造、機能のどちらにも全く影響がない場合もありますが、多くの場合はタンパクが作られてしまいます。その結果、タンパク自体には機能が残っていても、十分な働きをしない場合があります。鎌状赤血球性貧血(19)などが、その例です。また、タンパクそのものが完全に失われてしまう場合もあります。ある遺伝子変異がどのような結果を引き起こすかは、その遺伝子変異がタンパク自体をどう変化させるかだけでなく、そのタンパクがヒトが生きていく上でどれだけ重要であるかということにも深く関わっています。