6.遺伝子変異はどのように起こるのか?

 遺伝子変異には、親から受け継ぐ先天的なものと生まれた後に起こる後天的なものとがあります。先天的な変異は体を構成するすべての細胞に見られるDNAの変異です。それゆえ先天的な変異は生殖細胞変異(20)とも呼ばれます。それは遺伝子の変異が生殖細胞(21)(germ cells;子供を作るのに必要な精子や卵子)の中に存在し、親から子へ、世代から世代へと受け継がれていくからです。その変異は細胞が分裂するたびに複写され、全細胞が同じ変異を持つことになります。

 後天的変異(22)とは、別名体細胞変異(23)とも呼ばれますが、ヒトが生きていく過程において引き起こされるDNAの変異です。遺伝性の変異(24)との違いは、体細胞変異は一つ一つの細胞のDNAの中で起こり、変異が起こった細胞に由来する細胞のみに受け継がれることです。後天的変異は、ひとつの細胞が二つに分かれる細胞分裂の際に、DNAの偶然のミスによってしばしば引き起こされます。また放射線や毒物といった環境からの要因によって引き起こされることもあります。

 変異は体のどの細胞でも常に起こっています。しかし、通常すべての細胞には変異を認識する能力が備わっており、その変異が次の細胞に受け継がれる前に修復されます。けれども、細胞のDNA損傷の修復メカニズムが破綻していたり、弱っていたりする場合、加齢とともに修復能力が落ちてしまう可能性があります。その結果、長い間に、その変異が蓄積されてしまうのです。


図7:遺伝子の変異は生殖細胞中のDNAに受け継がれます。そして変異を持つ生殖細胞が受精し増殖すると、持ち込まれた変異はその結果作り出された体細胞のすべてに受け継がれることになります。



図8:後天的な遺伝子変異は一生を通じて発生します。この変異が体細胞(25)中で起こる場合は、最初に変異が起こった細胞から増殖した細胞の中にのみ受け継がれることになります。



図9:優性遺伝病において、どちらかの親が変異を有し、もう一方の親が正常な遺伝子を持っている場合、子供が疾患遺伝子を受け継ぎ発症する確率はそれぞれ50%です。