7.遺伝子はどのように疾患に影響するのか?

 2つの遺伝子は一対になっており、それぞれを両親から受け継いでいます。多くの遺伝子はさまざまな多型を有する対立遺伝子から構成されており、これをアレル(26)と呼んでいます。優性アレル(27)は他のアレルを支配し、表面化します。劣性アレル(28)はこのアレルが不活性化するかあるいはなくなった場合に現れます。

 例えば、嚢胞性線維症(29)では、異常な粘液を産生して病気を引き起こす遺伝子は劣性アレルです。したがって、このような劣性アレルのコピーを一つだけ受け継いだ人は、正常なアレルが優性であるため発病しません。しかしこういった人は保因者(30)であり、子孫に変異した劣性アレルを1/2の確率で引き継いでいきます。両親が共に保因者であった場合、2つの劣性アレルを両方の親から一つずつ受け継ぐと発症しますが、その確率は1/2×1/2=1/4です。(この確率は、それぞれの妊娠ごとに1/4の確率ということであり、4人の子供がいた場合に必ず一人が発病するということではありません。)通常、嚢胞性線維症や鎌状赤血球性貧血など劣性変異で疾患が発症することはまれですが、特定の民族ではかなり多く見られる場合があります。

 しかしほとんどの疾患や体質に単純な遺伝の法則が当てはまりまるわけではありません。様々な要因が遺伝子の働きに影響を与えるからです。まず第一に、すべての変異アレルが必ずしも疾患を引き起こすわけではありません。例えばBRCA1(乳癌易罹患性遺伝子)(31)のような優性アレルでさえ65歳までに発病する確率は80%で、100%ではありません。このような性質、すなわち遺伝子変異にともなう疾患が発症する可能性を、浸透率(32)と呼んでいます。

 嚢胞性線維症では、同じ遺伝子中の、異なる変異によってその影響の仕方が違ってきます。また、ある種のアルツハイマー病(33)に見られるように、異なる遺伝子の変異が同一の結果を導くといった場合もあります。ある体質においては、2つあるいはそれ以上の遺伝子変異が同時に起こってはじめて、発症する場合もあります。さらに、刷り込み(imprinting)現象(34)では、母親由来のアレルか父親由来のアレルのどちらが活性化あるいは不活性化しているかを判断することができます。



図10:劣性遺伝子変異では、両親が正常な遺伝子と変異した対立遺伝子を持ち、共に発病しない保因者であるとき、その子供たちに図のように遺伝します。子供が変異した対立遺伝子を二つ受け継ぎ疾患にかかる確率は1/4。二つの正常な対立遺伝子を受け継ぐ確率も1/4。一つが正常で一つが変異した対立遺伝子を受け継ぎ、両親と同じように保因者となる確率は1/2です。



図11:同一遺伝子中でも、変異が異なる場合、違った影響をもたらします。たとえば嚢胞性繊維症では、分泌物産生を制御する遺伝子に300以上もの異なる変異が報告されていますが、そのうちあるものは重篤な症状をきたし、また、あるものは軽症であったり、まったく症状の出ない場合もあります。