9.遺伝子診断はどのように利用されるのか?

 遺伝子診断は、個人またはその家系における遺伝子変異の有無を確認すると同時に、疾患のかかりやすさの素因を調べる目的で使用することができます。

 最も広く使われているのは新生児の集団検診です。アメリカ合衆国では、毎年4百万人の新生児が遺伝子産物の異常や欠損を調べるための血液診断を受けています。この診断の中には、遺伝子そのものの塩基配列の変異を検出するためのものや、フェニルケトン尿症(37)などの先天性代謝障害(38)などで見られるような細胞が正常に働くために必要なタンパクの欠損を検出するものなどがあります(訳者注;日本では新生児マス・スクリーニング(39)の中に組み込まれていますが、遺伝子そのものの塩基配列を調べる検査は行われていません)。

 保因者診断(40)は、妊娠・出産を希望しているカップルが、嚢胞性線維症や鎌状赤血球性貧血、テイ・サックス病(41)(致命的脂質代謝の異常)のような劣性遺伝病の劣性アレルをもっているかどうか、すなわち子供に遺伝する可能性があるかどうかということを調べる目的で行われます。生化学、染色体、DNAを利用した遺伝子診断はダウン症などの出生前診断(42)にも広く利用されています。

 臨床研究においては、医師はがんまたは前がん細胞におけるDNA変異を発見する目的で遺伝子検査を行います。この検査は様々な方面で利用されます。;例えば、早期発見(家族性大腸腺腫症(43)の遺伝子検査によって大腸がんのより精密な早期発見ができます);診断(白血病(44)のタイプを分けることができます);予後の予測(がん抑制遺伝子(45)であるp53遺伝子に変異があればがんの進行がかなり早まるとされています);治療(乳がんを進行させる遺伝子産物に対する抗体治療)などが挙げられます。

 現在、遺伝子診断で最も注目を集めているのは発症前遺伝子診断(46)です。;この診断はある疾患に罹る危険性の高い人々を発症前に発見するためのものです。

 すでに20以上の疾患に対する遺伝子診断が研究段階にあります。発見される疾患の遺伝子が増えると、さらに多くの遺伝子診断が行われるようになるでしょう。



図12:遺伝子診断には様々な方法があり、染色体全体の異常を検索したり、遺伝子中またはその近辺を含むDNAの短い領域の変異を検索したり、遺伝子の産物であるタンパクの異常を検索したりする方法が用いられています。