12.遺伝子とがんの関係は?

 がんとは遺伝子がうまく機能しないために起こる病気です。細胞の複製を正しくコントロールするための遺伝子が障害を受けると、その結果、無秩序に細胞が増殖し、隣接する組織の中に浸潤し、体全体に広がっていきます。

 すべてのがんは遺伝子の病気で、遺伝子が変異することによって引き起こされます。そのうちの、ごく一部のがんは遺伝します。変異は生殖細胞まで持ち込まれ、世代から世代へと受け継がれ、体全体の細胞の中に存在することになります。ほとんどのがんは、日常生活の中で起こる偶発的な変異によって引き起こされます。例えば細胞分裂の過程での複製の間違いや、放射線や化学物質のような環境要因による障害を受けた場合がそうです。

 がんは通常、一つの細胞から起こります。それぞれ異なる遺伝子あるいは遺伝子群によってコントロールされている一連の段階を経て、良性の細胞から悪性細胞への変化、さらには転移する細胞への変化が起こっていると思われます。それには幾種類もの遺伝子が互いに関連し合っています。がん遺伝子(67)は通常、細胞分裂を促進します。しかし、いったん変異や過剰発現が起こると、がん遺伝子は細胞に細胞分裂の信号を出し続けます。がん抑制遺伝子は通常、細胞分裂を抑制します。しかし、変異によって消失したり不活性化された場合、細胞の増殖・分裂が無制限に繰り返されます。(遺伝性の乳がん・卵巣がん、リ・フラウメニ症候群、網膜芽腫、ウィルムス腫瘍、家族性大腸腺腫症といった遺伝性のがんは機能しなくなった抑制遺伝子が原因だということがわかっています。)DNA修復遺伝子(68)の変異は、細胞の成長を加速するだけでなくDNA複製の際の間違いを修正できなくなった結果、何千もの遺伝子変異が蓄積してしまうため、がん(おそらくそのほかの疾患も)を誘発すると見られています。(遺伝性の大腸がんと関係している遺伝子はその“校正”にあたる遺伝子です。)



図16:がんは通常一つの細胞からはじまります。良性の細胞から悪性細胞へ、さらには転移する細胞への変化は、遺伝子あるいは遺伝子群によってコントロールされている一連の段階を経て起こっていると思われます。遺伝性腫瘍の保因者は生まれた時点ですでに最初の変異を持っています。