14.発症前診断をどのように開発していくのか?

 一般的には、大腸癌のような“疾患多発家系”−同じ疾患の人が血縁者の中に数世代に渡って多数いるような家系−の方々から採取したDNAを研究することで疾患関連遺伝子を探していきます。そして、容易に特定できるマーカー遺伝子で、疾患を持った血縁者には常に見られ、疾患を持たない血縁者には見られないものを探します。それから、標的の場所を徐々にせばめ、候補となる遺伝子をつり上げ、その中の遺伝子変異を特定するという、骨の折れる仕事が待っています。

 疾患に関わる特定の遺伝子の局在部位を同定できていなくても、関連するマーカー遺伝子を用いて、遺伝子診断をすることができます。しかし、より多くの人を対象とするには、遺伝子そのものを見つけ出すことが必要となります。DNAは非常に大きな分子(69)であるため、解析は困難を極めることもあります。ハンチントン病のケースでは、関連するマーカー遺伝子から疾患関連遺伝子に到達するまでに10年の歳月を要しました。

 一度、疾患遺伝子がクローニング(70)され(これによって詳細な研究用に十分な量の遺伝子が確保できます)、同定されると、DNAプローブ(71)を作り出すことができます。プローブとは、同定された遺伝子と合致する一本鎖のDNAのことです。(2本鎖のDNAにおいては、アデニン(A)は必ずチミン(T)と、グアニン(G)は必ずシトシン(C)と対をなしているのでこれが可能となります=塩基対(72))。一本鎖のプローブは遺伝子中のそれに対応する塩基配列を見つけ、結合します。プローブを放射性原子で標識しておくと、対応するDNAの領域が光を発します(この放射線の光は、目には見えませんがレントゲンフィルムを感光させます*6)。ある疾患にでは、同一遺伝子中に複数の変異が存在する場合があり、そのような場合、遺伝子解析はより困難なものになります。

 遺伝子機能解析検査(73)は、DNAではなくそこから作られるタンパクを検出するもので、変異した遺伝子が存在しているかどうかだけでなく、異常なタンパクを産生してるかどうかあるいはタンパクが産生されなくなっているかどうかを調べることができます。





図18:DNAサンプルから目的遺伝子変異を見つけ出すために、研究者はDNAプローブ(放射線同位元素標識した目的遺伝子と結合する一本鎖のDNA)を用います。一本鎖のプローブは標的遺伝子を探し出し結合します。プローブから発せられる放射線が、レントゲンフィルムを感光させ、目的遺伝子の位置を特定することができます