15.発症前診断の現状はどうなっているのか?

 がんに関する遺伝子診断は既すでにごく一部のがんに対し臨床時に用いられています。頻度の高いがんの発症前診断は、まだ基礎研究段階であり、がん多発家系の少数の症例に対して研究として行うことができるのみで、一般的に行うまでにはいたっていません。しかし、遺伝子診断の分野は急速に進化しています。新しい遺伝子が毎日のように発見され、遺伝子診断法の革新も目覚しく進んでいます。例えば:

・ 発症前診断は、すでに網膜芽細胞腫やウィルムス腫瘍の家系で行われてます。

・ 遺伝子診断は、がんを高頻度に発症するリ・フラウメニ症候群というまれな疾患の家系でも可能になっています。しかし、研究者の間でのみ行われている診断で、専門家は利益と不利益との軽重をよく考えて行うべきであると警告しています。

・ 家族性大腸腺腫症(この疾患では大腸ポリープが何百個もでき、それらを切除しなければそのうちいくつかが大腸がんになる疾患)では、すでに遺伝子診断が行われています。(しかし、ポリープのできている状態を見れば遺伝子診断を行わなくても診断できます。)

・ 大腸がんにかかりやすくする遺伝子変異の一群ががん家系の中で見つかってきました(遺伝性非腺腫性大腸がん)。100万人ものアメリカ人がこの遺伝的変異の保因者と考えられており、遺伝的大腸がんの約90%、また、毎年アメリカで診断される16万人の大腸がんの約15%を引き起こすと考えられています。この遺伝子変異は子宮がん、胃がん、卵巣がん、小腸がん、胆嚢がん、腎臓がん、そして尿管がんとも関係していることが分かっています。極めてがんになる危険度の高い家系(家族の3人以上ががんにかかっており、少なくともそのうち1人が50歳以下で発症し、2世代以上にわたってがんの人がいる家系)は現時点では、数ケ所の限られた研究所でしか検査を受けられませんが、この遺伝子検査は1年ないし2年以内に一般化されると思われます。

・ BRCA1の遺伝子変異は遺伝性乳がん・卵巣がんに関係します。BRCA1遺伝子変異は第17番染色体上にあり、BRCA1の遺伝子変異は一年間に発症すると予測される乳がん18万2000件のうち約5%の原因になっていると考えられます。その約4分の1は45歳以下の女性です。変異BRCA1遺伝子は乳がん多発家系のほぼ半数に見られ、若年者乳がんおよび卵巣がんの両方が存在する家系の少なくとも80%に見られます。その遺伝子を単離し、変異を調べる遺伝子診断が期待されていますが、それが一般的になる前に、BRCA1の変異保因者への適切な対処方法に関する研究に取り組むことが必須です。(第13番染色体上にBRCA2と呼ばれる第二の乳がん関連遺伝子も発見されています。)

黒色腫(74)、白血病、甲状腺がん、腎細胞がん(75)に関わる遺伝子も報告されており、その他いくつかのがんに関連する遺伝子も解明されつつあります。