16.現時点における遺伝子診断の恩恵は?

 がん多発家系にある人は自分だけでなく、その子どもにも様々な問題が起こる不安感を抱きつつ生活しています。ですから、もし発症との関連が明らかになっている遺伝子診断の結果が陰性であれば、それらの不安から解放されることになります。

 疾患との関連が明らかな遺伝子診断が陰性となれば、がん多発家系では当たり前とされている頻回の定期検査(例えば1年に1回の大腸内視鏡(76)―大腸全体を診ることのできる検査)を受ける必要がなくなります。

 診断結果が陽性の場合でも恩恵はあります。遺伝子変異があるかどうか分からないという不安定な状態解放され、自らの将来に対して確かな情報に基づいた決定をすることができるようになるからです。

 このように遺伝子診断により、理想的なサポート体制のもとで、遺伝カウンセリングを受けたり、危険を少しでも減らすための医療を受けられることになります。その代表的な例は大腸がんで、腫瘍が早期に発見された場合、ほとんどの場合は助かります。実際に大腸がんのスクリーニング(77)で、年間に何千人ものがんによる死をくい止めることができると思われます。遺伝子診断で大腸がんに関係する遺伝子変異が陽性であることは、定期的な検査(前がん状態のポリープやがんの初期症状の発見のための1年に1回の大腸内視鏡検査)を続けるとともに、繊維分の多い食品や低脂肪の食物摂取を心掛け、定期的な運動をするという健康的な生活習慣を行うようにという注意信号なのです。また別の選択肢として、がんになる前に手術をして大腸を切除するという方法も考えられます。