肝臓がん

肝がんについて

  • 肝がんの多くは肝炎ウイルス(B型、C型)の感染による慢性肝炎や肝硬変が背景にあります。最近は、アルコール摂取と関係ない脂肪肝が原因で肝硬変や肝がんに至るケースが増えています。
  • B型・C型肝炎ウイルスに感染し、慢性肝炎や肝硬変になった状態を肝がんになりやすい「肝がんの高危険群」と言います。高危険群は早期発見のために定期的に検査を受ける必要があります。
  • B型・C型肝炎ウイルスに感染している人は経口薬などの抗ウイルス療法によって肝がんのリスクを減少させることができます。
  • 抗ウイルス療法によって2000年ころより肝がんは減少してきていますが、日本での死亡者数は5番目です。

肝がんの診断

肝臓のがんは、肝臓にできた「原発性肝がん」と別の臓器から転移した「転移性肝がん」に大別されます。原発性には、肝臓の細胞ががんになる「肝細胞がん」と、胆汁を十二指腸に流す管(胆管)の細胞ががんになる「肝内胆管がん」などがあります。日本では、原発性肝がんの90%を「肝細胞がん」が占めています。ここでは「肝細胞がん」について説明します。
はじめに問診、超音波検査が行われます。肝臓内でのがんの広がりや遠くの臓器への広がりを見るためにMRI、CTを追加します。腫瘍マーカーなどと総合的に判断し診断します。診断に疑問のある場合は組織を採取してがんかどうかの診断を行います。肝がんであることが確定されると、これらの結果から総合的に肝がんの進行度(ステージ)を決定します。

1.腫瘍マーカー

腫瘍マーカーは血液検査で、体のどこかにがんが潜んでいるかどうかの目安になります。肝がんではAFPやPIVKA-II、AFP-L3分画と呼ばれるマーカーがあります。診断には2種類以上のマーカーの測定が推奨されています。ただし、マーカーがすべて陰性の場合や肝炎・肝硬変などで陽性になることもあります。画像診断が必要です。

2.超音波(エコー)検査

体の表面にあてた器具から超音波を出し、臓器で反射した超音波の様子を画像にして観察する検査です。患者さんの体の状態や部位によっては見えにくい場合もあります。
ペルフルブタンという造影剤を使用することがあります。

3.CT検査、MRI検査

がんの性質や分布、転移や周囲の臓器への広がりを調べます。病変を詳細にみるためには、造影剤が必要です。

4.血管造影検査

足の付け根の動脈から細い管(カテーテル)を差し込んで、肝臓や腸管の動脈に造影剤を入れ、血管や病巣の状態を調べます。血管造影は検査だけで行うことは少なく、後述する治療(化学塞栓療法、動注療法)を一緒に行うことが一般的です。

5.PET-CT

肝内病変の評価には適しません。悪性度評価や転移の判断には役立ちます。

6.エコーガイド下肝腫瘍生検

組織を採取する方法です。エコーの画像を見ながら、体の外から針を刺し腫瘤の一部を採取します。生検針は特殊な針を使用しますが、太さは採血針と同じ太さです。局所麻酔で行います。

肝がんの病期(ステージ)

肝がんの病期は、がんの大きさ、個数、脈管浸潤、転移があるかによって分類されます。

肝がんの治療

肝がんは慢性肝疾患を元に発生する場合が多いです。そのため、治療はがんの病期だけでなく、肝機能の状態を加味した上で選択する必要があります。肝がんの状態と肝障害度によって治療方針が決まります。

肝予備能

肝障害度分類、Child-Pugh分類
肝機能の状態によって3段階に分けられています。AからCの順に肝障害の程度が悪いことを表します。

肝障害度

Child-Pugh分類

腹水

お腹に溜まった水のことを言います。
余分な水分が漏れ出て溜まる場合と炎症や腫瘍によっておこる場合があります。肝硬変になると血液中のアルブミン濃度が低下し、水分が血管外に漏出するため腹水が溜まります。

脳症

腸で発生したアンモニアなどの中毒物質が肝臓で解毒されずに血中で増加し、脳の働きに影響を与えるために現れる症状です。肝硬変になると、中毒物質が肝臓で解毒されなくなります。便秘、脱水、感染などが誘因となります。

治療は、手術、穿刺局所療法、肝動脈塞栓療法の3つが中心になります。肝がんの状態と肝障害度を総合的に判断して治療法を決定します。治療アルゴリズムを参考に、担当医と治療方針について話し合ってください。

治療

1.肝切除

肝切除をするかどうかは、がんの位置や大きさ、数、広がり、さらに肝機能の条件などによって決められます。

2.肝移植

肝臓をすべて摘出して、かわりにドナー(臓器提供者)からの肝臓を移植する治療法です。肝機能が低下した肝硬変(Child-Pugh分類C)の場合に選択肢となります。肝がんにおける適応は、転移がない場合に限られます。ガイドラインでは、ミラノ基準内(単発で最大径5cm以下、または3個以内で最大径が3cm以下)あるいは5-5-500基準内(最大径5cm以下、5個以内かつAFP 500 ng/ml以下)の肝細胞がんに肝移植が推奨されています。

3.穿刺局所療法

体の外から針を刺してがんに対して局所的に治療を行うことです。この治療は、一般的にがんの大きさが3cmより小さく、3個以下が対象とされます。

1)ラジオ波焼灼療法(RFA)

ラジオ波焼灼術(RFA)は、穿刺部に局所麻酔を行った後、超音波で確認しながら皮膚から肝臓の腫瘍に電極針を穿刺します。この電極針周囲に発生する熱エネルギーにより、腫瘍および周囲の組織を熱凝固壊死させる治療法です。2004年に保険適応となり、肝癌に対する標準的な治療の一つとして位置づけられています。腫瘍の大きさや数、場所により、針の種類や治療時間は異なります。合併症として発熱、腹痛、出血、腸管損傷、肝機能障害や針を刺した場所に痛みややけどが起こることがあり、治療後は数時間の安静が必要です。

2)経皮的エタノール注入療法(PEIT)

無水エタノール(純アルコール)を肝がんの部位に注射して、アルコールの化学作用によってがんを死滅させる治療法です。RFAと比較して回数が多くなるため、最近はRFAが主流となっています。RFAで周囲臓器への影響が懸念される場合に行われることがあります。

4.肝動脈塞栓療法

肝動脈塞栓療法は、がんに栄養を運んでいる血管を人工的にふさぐ治療です。抗がん剤と肝がんに取り込まれやすい造影剤を混ぜてカテーテルを通じて投与し、その後に塞栓物質を注入します。

5.薬物療法

「肝動注療法」と「全身化学療法」があります。
肝動注療法は、カテーテルを用いて肝動脈から直接肝臓に抗がん剤を注入し効果を期待します。がんが肝臓のみにある場合に行われます。
全身化学療法は、局所的な治療で効果が期待できない場合や転移がある場合に肝機能が保たれた患者さんに対して行われます。2020年9月にアテゾリズマブ+ベバシズマブ療法が日本で適応拡大され、初回治療の第一選択となりました。2次治療以降ではレンバチニブ、ソラフェニブ、レゴラフェニブ(ソラフェニブに忍容性のある場合)、ラムシルマブ(AFP 400 ng/ml以上の場合)、カボザンチニブが現在使用可能となっています。今後さらに薬剤が増える可能性があります。

6.放射線治療

骨に転移したときの疼痛緩和や血管(門脈、静脈)に浸潤したがんに対する治療などを目的に行われます。肝細胞は放射線に弱いため、細心の注意が必要です。最近は、陽子線、重粒子線なども有効と考えられています。