子宮頸部・子宮頸がんについて
子宮には胎児を育てる部分である子宮体部と子宮の出口部分である子宮頸部があり、この先は腟に突出し、子宮頸部の周囲で腟壁と連続しています。子宮頸がんは子宮頸部から発生し、腟から診察、検査することで比較的早期に発見されやすいがんです。
大半の子宮頸がんの発生には、喫煙とヒトパピローマウイルス(HPV:Human Papilloma Virus)の感染が関連しています。HPVの感染経路は性交渉であることが知られています。性交渉の経験があれば、HPV感染はめずらしくないので、過度の心配は不要です。HPV感染しても、多くの場合、自覚症状がないうちにHPVは排除されると考えられています。一部のタイプのHPV感染を予防できるワクチンを接種することができますが、接種後も定期的な子宮頸がん検診を受けることは大切です。
日本では年間約10000人が子宮頸がんにかかり、約3000人弱が子宮頸がんによって死亡しています。子宮頸がんと診断される人は30〜50歳代に多いですが、近年20~30歳代の若い女性に増加しています。
子宮頸がんの診断
子宮頸がん検診の結果からがんが疑われた場合、精密検査としてコルポスコピー(拡大鏡での観察)、組織診を行ってがんの存在と組織型を確認します。また、がんの広がりを調べるため、内診や直腸診、MRI検査、CT /PET-CT検査を行います。画像検査で腫瘍を指摘できない場合などでは、子宮頸部円錐切除術という手術を行うこともあります。これらの検査結果から総合的にがんの進行期(ステージ)が決定されます。
1)組織を採取してがんを診断
コルポスコピーで異常が疑われる部位の組織を採取します。この検査で前がん病変やがんの有無を確定するとともに、子宮頸がんの種類(組織型)を診断します。代表的なものに扁平上皮がんと腺がんがあり、組織型によって治療方針が異なることがあります。
・子宮頸部上皮内病変(CIN)…扁平上皮がんの前がん病変であり、CINは1~3の3段階に分かれます。このうち、CIN3は治療対象になります。
・扁平上皮がん…子宮頸がんの約7割を占め、一般的に放射線や抗がん剤がよく効きます。
・腺がん…子宮頸がんの約2割を占め、近年増加しています。扁平上皮がんと比べると放射線や抗がん剤が効きにくいとされており、予後が悪い傾向にあります。
2)画像でがんの進行度(ステージ)を診断
子宮頸がんは進行すると膀胱や直腸などの周囲臓器に浸潤したり、リンパ節や肺などの離れた臓器に転移することがあります。画像検査はがんの広がりを評価し、治療方針を決定するために行われます。
・骨盤MRI検査
子宮頸がんの大きさ、子宮頸部周囲への広がり具合、子宮周囲のリンパ節への転移について評価します。
・CT(PET-CT)検査
全身を検査することで、子宮から離れた臓器やリンパ節への転移について評価します。
子宮頸がんの病期(ステージ)
子宮頸がんの病期(ステージ)はがんの大きさや周囲への広がり具合、他臓器への転移によって、治療開始前にⅠ〜Ⅳ期(臨床進行期分類、日本産科婦人科学会2011)に分かれます。
ⅠA期…顕微鏡でのみ診断できる微小ながん。
ⅠB期…診察で明らかにがんを認めるが、子宮頸部に限局する。
ⅡA期…腟の上方までがんの浸潤がある。
ⅡB期…子宮周囲の組織にがんの浸潤があるが、骨盤壁までは達していない。
ⅢA期…腟の下方までがんの浸潤がある。
ⅢB期…子宮周囲の組織への浸潤が骨盤壁まで達する。
ⅣA期…膀胱、直腸の粘膜までがんの浸潤がある。
ⅣB期…骨盤外の臓器に転移する。
子宮頸がんの治療
治療には手術、化学療法(抗がん剤治療)、放射線治療がありますが、いくつかを組み合わせる集学的治療を行うことも少なくありません。進行期や年齢、合併症、今後の妊娠希望など患者さんの状態に応じて、個別に治療法を考慮します。
1)手術
前がん病変の場合はレーザー蒸散術あるいは円錐切除術が選択されます。当科では、妊娠希望がある場合、レーザー蒸散術を行うことが多いです。
がんの浸潤がわずかである(IA1期)と判断された場合には単純子宮全摘術という子宮(+両側卵巣、卵管)だけを取る手術が行われます。浸潤の程度が高度な症例では広汎子宮全摘術という手術の適応であり、子宮周囲の組織や腟を広く切除し、リンパ節も含めて摘出します。単純子宮全摘術と比べると、術後排尿障害や下肢リンパ浮腫などの合併症が起きる頻度が高くなります。
・レーザー蒸散術…病変がある部分を含めてレーザーで焼く。組織診断はできない。
・円錐切除術…子宮頸部を円錐形に切り取る。組織診断ができる。
・単純子宮全摘術…子宮(+両側卵巣、卵管)を摘出する。
・広汎子宮全摘術…子宮周囲の組織、腟、リンパ節を含めて子宮(+両側卵巣、卵管)を摘出する。
2)放射線治療
放射線治療は根治目的に行われる場合と手術後の追加治療として行う場合があります。また、照射方法も放射線を体の外から当てる方法(外照射)と腟と子宮に器具を入れてがんの部分に直接当てる方法(腔内照射)があり、両者を組み合わせて行うことも多いです。また、化学療法(抗がん剤治療)と一緒に行う方法(同時化学放射線療法)は放射線治療単独と比べて有効性が高いということが示されており、進行期や全身の状態を加味し、選択します。
3)化学療法
子宮と離れたところにがんが転移している場合や再発した場合に行われます。
数種類の抗がん剤を組み合わせて用いることもあります。近年では分子標的薬の併用も有効な選択肢の一つです。