卵巣がん

卵巣・卵巣癌について

卵巣は、子宮の両側につながっている卵管(卵管采)の先に位置し、通常だと親指大の楕円形の臓器です。閉経までは卵巣の機能として女性ホルモンが分泌され、卵子を発育、放出します。卵巣がんは、卵巣の表面や卵巣の中にある様々な細胞から発生する悪性の腫瘍です。卵巣がんになると卵巣が赤ちゃんの頭よりも大きくなったり、それに伴ってお腹の水(腹水)が増えることも多く、発見された時には進行した病態であることもめずらしくありません。また、最近では特定の遺伝子に変異がある家族では遺伝性の卵巣がん(遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC:Hereditary Breast and Ovarian Cancer)など)を発症することも分かってきています。
日本では年間約10000人が卵巣がんにかかり、約4800人が卵巣がんによって死亡しています。卵巣がんと診断される人は50歳代に多く、患者数は増加傾向となっています。

卵巣がんの診断

初期の卵巣がんは、自覚症状がほとんどありません。おなかがはるなどの症状があって受診した時には、すでにがんが進行していることも少なくありません。画像検査や診察では良性卵巣腫瘍との区別が難しいこともあり、手術によって組織を採取することで診断を確定します。手術が困難な場合は、腹水の検査結果などを参考にして診断することもあります。抗がん剤治療を行い、全身状態が安定した状態になって手術を行う場合もあります。

1)画像でがんの進行度(ステージ)を診断

卵巣がんは進行するとおなかの中全体に広がったり、リンパ節や肺などの離れた臓器に転移することがあります。画像検査はがんの広がりを評価し、治療方針を決定するために行われます。

超音波検査

卵巣がんの大きさや性状、周囲の臓器への広がり、腹水があるかについて簡単に調べることができます。

骨盤MRI検査

卵巣がんの大きさや性状、周辺の臓器への広がりを評価できます。

CT(PET-CT)検査

全身を検査することで、卵巣から離れた臓器やリンパ節への転移について評価します。

2)組織を採取してがんを診断

卵巣は表層上皮の細胞や、卵巣の中にある胚細胞、性ホルモンを分泌する細胞とこれらの組織の間にある間質細胞から成っていますが、これらのすべての部分から腫瘍が発生するため多くの種類の腫瘍が発生します。治療方針が異なってくるので、組織型を診断することが重要になります。

表層上皮性腫瘍

卵巣がんの約90%を占め、発生頻度は漿液性がんが最も多く、明細胞がん、類内膜がん、粘液性がんの順で認められます

胚細胞性腫瘍

卵巣がんの約5%に満たない稀な腫瘍です。10~20歳代の若年層に多く発生するため、将来の妊娠を考慮した治療が必要となります。

性索間質性腫瘍

若年~高齢者の幅広い年齢層に発生します。腫瘍が産生するホルモンなどにより様々な症状がでることがあります。

卵巣がんの病期(ステージ)

卵巣がんの病期(ステージ)はがんの周囲への広がり具合、他臓器への転移によって、基本的には手術後にⅠ〜Ⅳ期(手術進行期分類、日本産科婦人科学会2014)に分かれます。

I期:腫瘍が卵巣に限局している

IA期 片側の卵巣に限局し、皮膜へ浸潤していない。腹水にがん細胞がない。
IB期 両側の卵巣に限局し、皮膜へ浸潤していない。腹水にがん細胞がない。
IC期 がんが片側または両側の卵巣に限局している。
IC1期 手術操作によって皮膜が破綻している
IC2期 皮膜が破綻しているか、皮膜へ浸潤している
IC3期 腹水にがん細胞がある

II期:腫瘍が片側または両側の卵巣に存在し、骨盤内へ広がっている

IIA期 がんが子宮や卵管に広がる
IIB期 骨盤内の他の臓器へ広がる

III期:腫瘍が片側または両側の卵巣に存在し、腹膜播種やリンパ節転移をしている

IIIA1期 リンパ節に転移がある
IIIA2期 顕微鏡的な播種がある
IIIB期 2cm以下の播種がある
IIIC期 2cm以上の播種がある

IV期:腹膜播種を除き、遠隔転移している

IVA期 胸水にがん細胞がある
IVB期 肺や肝臓、腹腔外のリンパ節などへ転移がある

卵巣がんの治療

卵巣がんの治療は『手術』、『抗がん剤治療』に大きく分けられます。CTやMRI検査で病変の広がりを評価し、手術が可能な状態であれば診断に必要な臓器を摘出し、組織型と進行期を診断します。手術後は診断に基づいて化学療法が行われることが多いです。治療法は標準治療に基づいて、全身状態や合併症、進行期を総合的に判断し、患者さんと相談したうえで決めていきます。

1)手術

・基本的な術式:両側卵巣と卵管、子宮、大網を摘出します。
*がんが全て摘出できる時には後腹膜リンパ節も郭清します。
*若年者に対しては、がんの状態に応じて妊孕能温存手術(妊娠できる可能性を残す手術:片側の卵巣と大網を摘出)を選択します。
・試験開腹術:卵巣の摘出が困難な場合、播種など一部組織のみを摘出します。
・腫瘍減量術:腫瘍が広がっていて完全には摘出できない場合、可能な限り腫瘍を摘出します。

2)化学療法

化学療法とは抗がん剤により、がん細胞を減少させ増殖を抑える治療法です。抗がん剤は血流にのって全身に運ばれるため、全身をカバーした効果が期待できます。卵巣癌は進行した状態で発見されることが多いため、化学療法を行うことがほとんどです。早期に発見された場合でも、再発危険性が高いと判断した場合には、術後に化学療法を行うことがあります。また、病変が広がっていて手術で十分摘出できないと判断した場合や、合併症などが原因で、全身状態が手術に適さない場合などは、術前に化学療法を行うことがあります。 現在、卵巣癌に対して標準治療となっているのはタキサン製剤とプラチナ製剤の併用療法(TC療法:パクリタキセル、カルボプラチン)です。その他、がんの増殖などに関わっている分子を標的とするする分子標的薬(ベバシズマブ、オラパリブ)も併用して投与することがあります。