リンチ症候群/遺伝性非ポリポーシス大腸がん

病気の特徴

家系内に大腸がん、子宮内膜がん(子宮体がん)を発症する方が多い特徴があります。他に小腸がん、腎盂がん、尿管がん、また日本人では胃がんも発症する方が多いとされています。以下のような特徴に当てはまる場合には、リンチ症候群の可能性を考慮して、専門家にご相談されることをお勧めします。

  • 若年(おおむね50歳未満)で大腸がんを発症している
  • 父方あるいは母方のどちらか一方の血縁者や兄弟姉妹の中に、大腸がんや子宮体がんを発症した人が多く(概ね3人以上)いる
  • 1人の人が、同時期あるいは異なる時期に、2つ以上の大腸がん(転移ではなく原発の大腸がん)を発症している
  • 1人の人が、同時期あるいは異なる時期に、大腸がんと子宮体がんの両方を発症している

この疾患は、診断基準として知られている、アムステルダム診断基準Ⅱ(1999)や日本大腸癌研究会の基準(1991)によって定義されていますが、これに該当しない家系の方でも、原因遺伝子(後述)に変異が見つかる場合もありますので注意が必要です。

改変アムステルダム診断基準
Revised Amsterdam CriteriaⅡ(ICG-HNPCC in 1999)

3名以上の血縁者がHNPCC関連がん(大腸がん、子宮内膜がん、小腸がん、腎盂がん・尿管がん)に罹患しており、かつ以下の全ての条件に合致する

  1. 1.罹患者の1名は他の2名の第1度近親者である
  2. 2.少なくとも継続する2世代にわたり罹患者がいる
  3. 3.罹患者の1名は50歳未満で診断されている
  4. 4.FAPが除外されている
  5. 5.がんの診断が組織学的に確認されている

日本大腸癌研究会の診断基準
Japanese Clinical Criteria(1991)

A群

第一度近親者(親・子・兄弟姉妹)に発端者を含む3例以上の大腸がん患者を認める大腸がん

B群

第一度近親者に発端者を含む2例以上の大腸がん患者を認め、なおかついずれかの大腸がんが、次のa.~d.のいずれかの条件を満たす大腸がん
a.50歳以下の若年性大腸がん
b.脾湾曲部より近位の右側大腸がん
c.同時性あるいは異時性大腸がん
d.同時性あるいは異時性の他臓器重複がん

病気の原因

リンチ症候群は、生まれながらに持っている遺伝子の変化(「遺伝子変異」といいます)によって起こります。遺伝子は、私たちの体を構成する細胞の中にあり、体を作るための設計図のような役割をしています。私たちの体や体内で必要とされる物質は、約2万3千種類もある遺伝子の情報に基づいて作られます。現在知られているリンチ症候群の原因遺伝子は、hMSH2、hMLH1、hMSH6、hPMS2の4つです。これら4つの遺伝子は、細胞分裂の際に起こり得るDNAの複製誤りを修復する働きをする物質をつくる情報(「ミスマッチ修復遺伝子)と言います)です。リンチ症候群ではこの4つ遺伝子のどれかに変異が起こっているために、DNAの複製誤りが修復できず細胞のがん化を引き起こすと考えられます。ただし、この4つの遺伝子変異だけではリンチ症候群の原因を全て説明することはできません。いまだ研究途上の疾患であり、今後さらに別の原因遺伝子やメカニズムが判明する可能性があります。

リンチ症候群の原因遺伝子の変異は、親から子に2分の1の確率で受け継がれます。つまり、親が遺伝子変異を持っていても、必ず子どもに遺伝子変異が受け継がれるわけではなく、その確率は50%ということになります。また、これらの遺伝子変異を持っていても、必ずしもがんを発症するというわけではありません。

経過観察と治療

リンチ症候群では、大腸がんや子宮体がんを若い年齢で発症する可能性が高いため、早い時期(20~30代)から大腸内視鏡検査や婦人科の受診による定期的な検診を開始することが大切です。また、胃がんや尿路系のがんの検診としては、上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)や尿中の細胞の検査が行われます。大腸がんや子宮体がんを発症した場合の治療は、一般的な大腸がんや子宮体がんの場合と同じです。また、一度がんを発症して治療した後も定期検診を行い、新たに発症するかもしれないがんの早期発見に努める必要があります。

遺伝学的検査

遺伝学的検査は、採血を行い血液から遺伝子を抽出して調べます。遺伝学的検査で病気の原因といえる遺伝子変異が認められた場合には、リンチ症候群であることが確定され、今後の定期検診の必要性が明確になります。また、血縁者の方も同じ遺伝子変異を有しているかどうかを調べることで、がんの発症のリスクを予測した上で、定期検診を計画することができます。しかし、リンチ症候群の原因遺伝子の全容はまだ解明していないため、検査を受けても病気の原因といえる遺伝子変異が見つからないこともあります。検査をした範囲で遺伝子変異が認められない場合でも、ご本人やご家族の病気の状況からこの病気の可能性が高いと考えられる場合には、今後もご自身や血縁者の方の定期検査が必要であることは変わりません。遺伝学的検査の持つ意味や検査結果がご本人やご家族にもたらす影響について、専門家やご家族とよく話し合ってから検査を受けることが大切です。