家族性大腸腺腫症

病気の特徴

家族性大腸腺腫症は英語でFamilial Adenomatous Polyposisといい、略称をFAPといいます。これより先の文章では家族性大腸腺腫症のことをFAPと表記します。

大腸の中にたくさんのポリープができ(100個以上の場合が多い)、やがてそれががん化することにより、大腸がんを発症する病気です。一般の大腸がんに比べて、若い年齢で大腸がんになるのが特徴です。この病気の場合、10~20歳でポリープが出来始め、20代半ばで約10%、40歳で約50%、60歳で90%の方が大腸がんを発症します。また、胃や十二指腸にもポリープが複数できることがあり、十二指腸がんもできやすいことが知られています。

病気の原因

FAPの原因は、APC遺伝子と呼ばれる遺伝子に生まれながらに変化(「遺伝子変異」といいます)を持っていることによります。遺伝子は、私たちの体を構成する細胞の中にあり、体を作るための設計図のような役割をしています。私たちの体や体内で必要とされる物質は、約2万3千種類もある遺伝子の情報に基づいて作られます。その中でAPC遺伝子は、細胞のがん化にブレーキをかける物質を作るための情報です。したがってAPC遺伝子に変異が起こるとブレーキがかからなくなり、細胞のがん化が起こるのです。

APC遺伝子の変異は、親から子に2分の1の確率で受け継がれます。つまり、親がFAPという病気を持っていても、必ずFAPを持った子どもが生まれるというわけではなく、その確率は50%ということになります。また、FAPの患者さんのうち、両親のどちらかからAPC遺伝子の変異を受け継いだと考えられるのは約7割ほどです。残りの約3割の方は、両親にはなかったAPC遺伝子の変異が子どもに新たに起こり、家系内ではじめてFAPになったと考えられます(これを「新生突然変異」と言います)。この場合でも、患者さんから次の世代へは、やはり2分の1の確率でAPC遺伝子の変異が受け継がれます。

経過観察と治療

FAPと診断された場合、あるいは血縁者にFAP患者がいてAPC遺伝子の変異を受け継いでいる可能性が考えられる場合には、早期(10代)から大腸内視鏡検査による検診を開始し、定期的にポリープの経過観察を行います。そして大腸がんが発生する前に予防的に手術を行い、大腸がんを防ぐのが一般的です。

一方、胃や十二指腸にもポリープやがんが発生する可能性もあるため、上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)も1年程度毎に行い、必要に応じて治療を行っていきます。

遺伝学的検査

FAPは、大腸の中にポリープがたくさんできる特徴的な所見がありますので、ほとんどの場合、本人の大腸内視鏡検査をすれば診断できます。

遺伝学的検査をする意義は、主にまだ発症していない子どもやきょうだいにAPC遺伝子の変異が遺伝しているかどうかを調べるときに発揮されます。具体的には、採血をして血液の中から遺伝子を抽出して調べます。まず発症している方のAPC遺伝子の変異を確認し、それからまだ発症していない血縁者の方の遺伝子に同じ変異があるかどうかを調べます。血縁者にもAPC遺伝子の変異が見つかれば、その方はFAPと診断されます。このような場合、早期に大腸内視鏡検査を開始して大腸がんを予防することが非常に重要になります。ただし、FAPの患者さんであっても、遺伝学的検査でAPC遺伝子の変異を確認できない場合もありますので注意が必要です。遺伝学的検査の持つ意味や検査結果が本人や家族にもたらす影響について、専門家や家族とよく話し合ってから検査を受けることが大切です。