小腸がん(十二指腸・空腸・回腸のがん)

小腸について

小腸とは消化管の胃と大腸を継ぐ部分で、十二指腸・空腸・回腸のことを指します。
十二指腸は胃つながり、胃から送られてきた食物をさらに消化して空腸へ送ります。十二指腸には、胆汁の出口である乳頭部があります。胆汁は消化に重要な役割を果たしています。十二指腸以降の小腸の前半部分を空腸、後半部分を回腸といいます。

小腸がん(十二指腸がん、空腸がん、回腸がん)について

小腸には様々な腫瘍が発生することが知られています。小腸悪性腫瘍の組織型は、

  1. 1.神経内分泌腫瘍
  2. 2.腺癌
  3. 3.悪性リンパ腫
  4. 4.肉腫(GIST、平滑筋肉腫)

が主であり、頻度としては、神経内分泌腫瘍が最も多く、次いで腺癌が多いとされています。

このページでは小腸から発生する『腺癌』について解説していきます。
一般に小腸腺癌は、ファーター乳頭部がんを除く十二指腸原発腺癌、空腸原発腺癌、回腸原発腺癌のいずれかと定義されます(以下、「小腸腺癌」は上記3疾患の総称として用います)。 小腸腺癌は全悪性腫瘍のうちの0.5%以下、全消化管悪性腫瘍のうちでも5%以下とされています。欧米諸国における小腸腺癌の年間発症率は0.22人/10万人から0.57人/10万人と極めて稀な腫瘍であり、希少がん(年間発症率:6人未満/10万人)に該当します。

小腸腺癌の原因は不明であり、リスク因子としては、クローン病や潰瘍性大腸炎などの自己免疫疾患、家族性大腸腺腫症やポイツイエガース症候群・リンチ症候群などの遺伝性疾患、などが知られています。

症状について

小腸腺癌は小腸の前半部分に好発し、およそ45%が十二指腸、35%が空腸、そして20%が回腸に発生するとされます。 早期がんでは多くの場合、無症状です。 十二指腸の奥より肛門側に病変がある場合、通常の内視鏡による観察が不可能であるため、大半の患者さんは便潜査陽性や貧血の進行、腸の狭窄による腹痛や腸閉塞といった症状を契機に、高度に進行した状態で発見されます。 十二指腸の病変が進行すると、上記の症状のほか、胆汁の出口を塞いでしまうことで黄疸を来すこともあります。

診断について

小腸がんではCEAやCA19-9といった腫瘍マーカーが上昇することがありますが、これらは小腸がんに特異的なマーカーではないこと、悪性腫瘍以外の原因で異常値を示すことが知られていること、非常に進行した状態でも異常値とならないケースも多々ありますので、腫瘍マーカーだけで小腸腺癌の有無を判断することは不可能です。

上記のように十二指腸の手前の病変に関しては通常の内視鏡検査にて病気を発見できることが多いですが、十二指腸の奥より肛門側の病変に関しては発見が困難です。 近年、カプセル内視鏡検査が実施可能となり小腸腫瘍の存在診断に有用とされていますが、この検査では病気の部分から組織を採取(生検)することによる病理診断ができません。 最近ではダブルバルーン内視鏡の登場により、十二指腸より奥の病変に対しても生検が可能なケースが増えてきていますが、確定診断のために外科的手術が必要となることも少なくありません。

治療について

小腸腺癌のステージは、以下のUICC-TNM分類(第8版、2017年版)を用いて診断します。がんの小腸への浸潤(直接的に入り込む深さ)をT、リンパ節転移の拡がりをN、肝臓や肺など小腸以外の臓器への転移をMで表し、それらの組み合わせにより、ステージ0からステージⅣまで診断します。ステージの数字が小さいほど治りやすいとされます。

病期分類 T分類 N分類 M分類
0期 Tis:上皮内癌 N0 M0
Ⅰ期 T1:粘膜下層まで浸潤
T2:固有筋層まで浸潤
N0 M0
ⅡA期 T3:漿膜下層まで浸潤 N0 M0
ⅡB期 T4:臓器腹膜を貫通、
または多臓器浸潤
N0 M0
ⅢA期 Tに関係なく N1 M0
ⅢB期 Tに関係なく N2 M0
Ⅳ期 Tに関係なく Tに関係なく M1:遠隔転移あり

(UICC TNM分類 第8版)

小腸腺癌は、その希少性ゆえ、小腸腺癌は頻度が低いので、臨床研究によって最良であると科学的に証明された治療法はまだありません。

ステージⅠからⅢについては、「病巣の切除」が主たる治療になります。 ステージ0およびステージⅠのうち腫瘍が深部に入り込んでいないと判断される場合は、転移している可能性が少ないので「内視鏡的切除」が行われ、ステージⅠでも所属リンパ節などへ転移している可能性が考える場合やものやステージⅡからⅢについては、腫瘍の周囲のリンパ節を含めて「外科的切除」を行うことが行われます。 小腸腺癌については、根治手術(手術所見で明らかな腫瘍の取り残しがなく切除できた状態)後の再発予防を目的とした手術後の抗がん剤治療(術後化学療法といいます)の効果はよくわかっていないことから、手術後は追加治療を行わずに慎重に経過観察(手術単独療法)を行うことが一般的です。 現在、世界各国で根治手術後の小腸腺癌を対象とした術後化学療法の臨床試験が実施されており、日本でも試験が進行中です。

またステージⅣや手術後の再発の場合には、全身に腫瘍が及ぶ病態と考え化学療法による全身への治療が行われます。小腸腺癌の化学療法については、過去の複数の報告にて、大腸がんの治療の一つである「フッ化ピリミジン+オキサリプラチン療法」(CAPOX療法やFOLFOX療法)の治療成績が良好であることが示されています。 しかし、現在本邦において小腸腺癌に対して保険診療で認められた薬剤はありません。そのため、次章に記載された臨床試験が行われており、その効果が期待されています。

小腸がんに対する臨床試験

日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG1502C:略称J-BALLAD:UMIN000027280)が行っています。愛媛県では四国がんセンターで行っています。参加を希望される(または検討してみたい)患者さんは、当院の相談支援センター(089-999-1114)へお問い合わせください。

(国立がん研究センター 希少がんより一部改訂)