治療について

放射線治療

放射線治療は、高エネルギーのX線や電子線を照射してがん細胞を傷害し、がんを小さくする効果があります。初回治療として放射線治療が適応になるのはT1がん以下で、T2以上は再発率が高いので初回治療には適さないとされています。本邦での放射線治療は外照射のみですが、欧米では小線源治療も行われています。外照射の成績は局所コントロールおよび陰茎温存率ともに65%で、5年がん特異生存率は86%だったと報告されています。比較的満足のいく成績ですが、これらの報告は症例数が非常に少なく、これまでに放射線治療に関して多数例の長期間観察された報告はありません。
放射線治療の急性期有害事象としては、尿道粘膜炎、浮腫、二次感染などがあります。一方、晩期有害事象としては外尿道口狭窄が最も多く、15-30%に認められます。そのほかにも尿道狭窄が20-35%、毛細血管拡張は90%以上と報告されています。また、壊死を含む放射線治療後の変化は腫瘍残存との鑑別が難しく、注意が必要です。

化学療法(抗がん剤治療)

上皮内がんに対しては5-フルオロウラシル (5-FU)クリームの局所塗布により治癒が得られます。
進行がんや転移がんには化学療法が施行されます。有効な抗がん剤として5-FU、ブレオマイシン(BLM)、メソトレキセート(MTX)、シスプラチン(CDDP)があります。それぞれ単剤でも20%程度の有効率がありますが効果は一時的で不十分であるため多剤併用のレジメンが考案されてきました。なかでも有効率が高かったのは、CDDP+BLM+MTXを使用した報告(40例)で、有効率は33%でした。しかし12%に治療関連死が認められ、副作用の強い治療法であるといえます。陰茎がんに対する化学療法は症例数が少なくランダム化比較試験もないため多剤併用療法の有効性はあきらかではありません。最近ではイリノテカンやタキサン系を使用した報告も散見され、高い有効性が報告されています。当科ではこれまでの報告の中から効果が高く副作用の少ない、TIP療法(パクリタキセル、イホスファミド、シスプラチン)を行うようにしています。
化学療法の適応については、年齢、全身状態、および患者の希望によって考慮されるべきで、化学療法が推奨されるのは、予後の延長が重要と考えられる人、全身状態が良くて症状のある人などであり、慎重に選択されるべきです。いずれにしても化学療法の効果はそれほど望めないため、緩和療法と平行して行うべきです。

手術治療

通常Jackson分類3期までが手術の適応になりますが、遠隔転移のないT4症例は、手術可能な場合もあり慎重に検討すべきです。
原発巣に対する手術法には温存手術と陰茎切除術があります。T1a(T1G2)までは温存療法が推奨され、それ以上だと陰茎切除術になります。

陰茎温存手術

レーザー治療や局所切除(顕微鏡手術)が代表です。上皮内がんでは局所のコントロールも良好ですが、T1がんだと手術後の再発がやはり問題となります。温存治療では後述する陰茎切断術と比較し、再発率は高いのですが、浸潤がんに移行することは少ないとされ、定期的な観察により救済治療が可能であるといわれています。

陰茎切除術

T1b(T1G3)あるいはT2以上が適応になります。陰茎切除術には部分切除、あるいは全切断除があります。切除範囲はT分類により決定されます。通常この病期では陰茎温存手術は適応とはなりません。

陰茎部分切除術

陰茎部分切除術は、右図のように陰茎を途中で切断し、外尿道口を形成します。陰茎は短くなりますが、切断前と同様な排尿が可能です。しかし、立位排尿が可能なためには少なくとも2.5から3cmの陰茎長が必要とされ、もしこの長さが確保されないなら、より快適な排尿状態を保つために陰茎全摘および会陰部への尿道形成を考えるべきです。

陰茎全切断術

陰茎全切断術は、図のように皮膚切開を加え、陰茎海綿体をすべて摘除します。尿道は会陰部皮膚まで届くように十分な長さを持って切断し、外尿道口を作成します。通常、肛門より3-4cm前方に外尿道口を設置すると良いとされます。
陰茎切除術に関しては外尿道口狭窄以外問題になることは少ないですが、術後の排尿状態については考慮すべき問題です。

リンパ郭清

陰茎がんでは原発巣に対する手術以外にリンパ郭清が重要です。
鼠径部リンパ郭清には拡大(radical)と縮小(modified)があります。拡大リンパ郭清の範囲は鼠径靱帯、内転筋、縫工筋で囲まれた範囲で、深さは大腿動静脈までです。一方、縮小リンパ郭清は大伏在静脈を温存しその周辺1-2cmと鼠径靱帯までの範囲です。
リンパ節腫大を認めた場合、低リスク群(T1a:T1G2まで)ならまず4週間抗生剤投与を行い、その後リンパ節を再評価します。抗生剤投与にもかかわらず、リンパ節腫大が改善しない場合に、リンパ郭清をします。

一方、高リスク群(T2以上、grade3、脈管浸潤あり)であればリンパ節腫大の有無にかかわらず両側鼠径部リンパ郭清が必要となります。その後、リンパ節腫大の有無や術中迅速検査の結果などで郭清範囲が決定され、必要なら骨盤内リンパ郭清も施行します。
リンパ郭清の合併症は多く、早期の合併症としては、リンパ瘤(12.5%)、リンパ浮腫(10%)、創部感染(7.5%)、創離開・壊死(7.5%)、があります。また、晩期合併症としてリンパ浮腫(5%)、リンパ瘤(2.5%)、壊死(2.5%)、があります。リンパ浮腫予防のためには弾力性ストッキング着用やリンパマッサージが有用とされており活用すべきです。当院ではリンパ浮腫外来があり、術後は紹介するようにしています。リンパ郭清術後の放射線治療や化学療法の追加についてはその有効性は証明されておらず、特に、臨床的にリンパ節転移のない症例に対する放射線予防照射は、照射により転移を予防することはできないのですすめられません。しかも照射によって繊維化が起こり、フォローアップが困難になるとされています。