肺がん

肺がんの動向

肺がんは日本の臓器別がん死亡数で1位

わが国の肺がん患者数は増加傾向にあります。

患者数では胃がん、大腸がんに次ぐ第3位(男性:胃がんに次ぐ第2位、 女性:乳がん、大腸がん、胃がんに次ぐ第4位)、臓器別の死亡数では第1位(男性:第1位、 女性:大腸がんに次ぐ第2位)です。(2013年の統計より)

肺がんの診断

(1)画像でがんの進行度(ステージ)を診断

肺から発生したがんを肺がんと呼びますが、他の臓器に転移することが少なくありません。以下のような画像検査によって、がんの存在する部位やひろがりを確認することが重要です。

胸部レントゲン

…検診などで広く行われている検査で、肺がんの発見に使われます。ただし心臓、横隔膜や肋骨などに隠れて見つけることができない場合もあります。

胸部CT

…肺がんがどの場所にあるのか、どれくらいひろがっているかを確認することができます。

腹部・頭部CT

…肝臓などの内臓、リンパ節、脳などに転移がないかどうか調べることができます。

頭部MRI

…転移を調べるのは頭部CTと同じですが、頭部MRIはさらに小さい転移を発見することができます。

骨シンチグラム

…肺がんが骨に転移しているかどうかを調べます。

PET-CT

…転移がないかどうか全身を調べる検査で、3~4時間かかります。

(2)組織を採取してがん細胞を診断

肺がんには、がん細胞(組織型)にいくつかの種類があり、大きく分けて小細胞肺がんその他の肺がん(非小細胞肺癌と呼びます)に分けることができます。種類によって治療方針が異なってくるので、治療前にはがんの一部を採取して顕微鏡でがん細胞を確認することが必要です。

小細胞肺がん
…肺がんの約15%を占め、喫煙との関わりが大きいと言われています。早期にリンパ節や他の臓器などに転移するなど、すぐに悪化することが特徴の一つです。
非小細胞肺がん
腺がん…肺がんの約70%を占め、非喫煙者にできる肺がんの多くはこのタイプです。
扁平上皮がん…肺がんの約15%を占め、喫煙と関わっていると言われています。
その他
…大細胞がん、多形がん、腺嚢胞がん、明細胞癌などがあります。

採取の方法としては、気管支鏡検査(胃カメラより細い管を口から気管・気管支に挿入し、異常が認められる部位から組織を採取します)や、CT肺針生検(CTを使って異常がある部位の位置を確認しながら、胸や背中の表面から針を刺して組織を採取します)のほか、手術(胸腔鏡下生検、開胸生検)によって組織を採取する方法もあります。

(3)がんの遺伝子診断

最近の研究で、がん細胞を増殖させる遺伝子の変異(ドライバー遺伝子変異と呼ばれます)がいくつか見つかっています。どの遺伝子変異があるかを調べることで、肺がんを遺伝子レベルで区別し、その遺伝子が作り出す分子を抑える薬剤(分子標的薬と呼ばれます)も開発されています。適切な分子標的薬を使用することで、高い治療効果が期待できます。

肺がんの病期(ステージ)

  • 肺がんは主に『非小細胞肺がん』と『小細胞肺がん』に分かれています。
  • 肺がんの病期(ステージ)は、がんの大きさ、リンパ節転移、他の臓器への転移によりⅠ~Ⅳ期に分かれ、それぞれ治療方針が異なります。
  • 『小細胞肺がん』は他にも『限局型』『進展型』という分類があります。

非小細胞肺がん

病期 状態 治療法
ⅠA期 3cm以内で肺の中にあるがん 手術
(+抗がん剤)
ⅠB期 3~4cmのがん、もしくは肺の表面近くにおよんでいるがん 手術
+抗がん剤
ⅡA期 4~5cmのがん 手術
+抗がん剤
ⅡB期 がんが肺近くの気管支周囲にあるリンパ節に転移している。もしくはがんが肋骨などにおよんでいる 手術
+抗がん剤
ⅢA期 がんが肺近くの気管支を超えて、気管や食道近くのリンパ節に転移している。もしくは、心臓や食道などの重要な臓器におよんでいる 状況により手術、抗がん剤、放射線治療から組み合わせ
ⅢB期
ⅢC期
がんが鎖骨付近や反対側のリンパ節に転移している。もしくは、心臓や食道などの重要な臓器に及んでいる 抗がん剤治療
(+放射線治療)
ⅣA期
ⅣB期
他の臓器への転移、もしくは肺表面から外側にがんが散っている状態 抗がん剤治療

小細胞肺がん

小細胞肺がんでもI、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ期という病期は肺がんの状態を把握するために大切ですが、治療方法を考える際に、限局型、進展型というもう1つ別の分類方法を用います。

  • 限局型…がんが片側の肺と近くのリンパ節(縦隔のリンパ節、がんのある肺と同側の鎖骨上リンパ節も含む)にみられる場合です。
  • 進展型…がんが肺の外に拡がり、がんの転移が身体の他の臓器にも見つかる場合、すなわち転移のある場合です。

肺がんの治療

肺がんの3大治療は『手術』、『化学療法』、『放射線治療』

肺がんの3大治療は『手術』、『化学療法(抗がん剤治療)』、『放射線治療』です。主にがんの種類(主に小細胞肺がん、非小細胞肺がん)や進行度によって選べる治療が決まってきます。四国がんセンターでは、手術を行う『呼吸器外科』、化学療法を行う『呼吸器内科』、放射治療を行う『放射線治療科』の3科が連携して治療を検討しています。

肺がんの手術

手術対象となるのは主にステージI~ⅡとステージⅢAの一部です。肺は左右対称ではなく、右の図のように右が上中下の3つの袋、左が上下の2つの袋に分かれています。それぞれの袋を『肺葉』と呼び、それぞれ『上葉』、『中葉』、『下葉』と名付けられています。また、左右の肺に囲まれた領域を『縦隔』と呼び、心臓や食道、気管などの重要な臓器がある場所です。肺はリンパ流が発達し、肺から縦隔へ多数のリンパ節が存在します。肺がんはこのリンパ節にも転移しやすいがんです。

肺がんの手術はがんが存在する肺葉と、そこからのリンパ流があると思われるリンパ節を切除する『リンパ節郭清』が最も一般的な手術です。しかし、がんが小さく、リンパ節転移の可能性が低い場合や、呼吸機能が弱い患者さんについては、切除範囲の小さい「区域切除」や「部分切除」を行うことがあります。反対に、がんが太い気管支や血管、周囲の臓器に広がっている場合には、周りの臓器の合併切除を行うこともあります。

肺がんの手術は、従来20~30cmほどの傷で、肋骨を1~2本切断する『開胸手術』が一般的でした。近年では胸腔鏡カメラと器具の発達により、5cm前後の傷と3カ所程度の穴で行う『胸腔鏡下手術』が増えています。四国がんセンターでは全手術症例の80%以上を胸腔鏡下手術で行っています。

肺がんの化学療法

化学療法とは抗がん剤により、がん細胞を減少させ増殖を抑える治療法です。注射または内服によって投与された抗がん剤は、血流に乗って全身に運ばれるため、全身をカバーした効果が期待できます。

肺がんに対して用いられる主な『細胞障害性抗がん剤(いわゆる抗がん剤)』は、患者さんの状態、薬剤の副作用などを考え合わせて選択されます。医学の進歩により、肺がんの中にはEGFR、ALK、ROS1と呼ばれる遺伝子に異常がある例があることが分かってきました。

これらの遺伝子異常を持つ肺がん患者さんには特に有効性が高い『分子標的薬』が使用可能となりました。患者さんの肺がんの遺伝子異常を調べ、もし特定の遺伝子異常がある事が分かれば、その遺伝子異常に合った適切な分子標的薬を使用することで、高い治療効果が期待できます。

分子標的薬の仕組み(EGFR遺伝子異常の例)

さらに近年、本来は体の中に発生したがん細胞を攻撃するべきリンパ球などの免疫細胞が、肺がんを患うとうまく働かない事が明らかになりした。この免疫細胞の機能を再活性化する『免疫チェックポイント阻害薬』による免疫療法の有効性が認められています。この免疫療法は免疫細胞などががん細胞を攻撃する力を高め、がんを小さくすると言われています。

上記の様に、化学療法は目覚ましい進歩を遂げていますが、化学療法のみでがんを完全に抑えることは困難です。そのためよりよい治療方法の開発を目指して、数多くの臨床試験(治験)が行われています。四国がんセンターでも肺がんに対する治験を行っています。その数は四国で最も多く、全国でも有数です。

肺がんの放射線療法

肺がんに対する放射線治療には、放射線照射範囲を絞って強い放射線を数回当てる放射線治療(定位放射線治療)と、比較的弱い放射線を30回程度に分割して当てる放射線治療があります。小型でリンパ節転移が認められない肺がんでは定位放射線治療が行われます。また、進行した肺がんでは放射線治療と化学療法を組み合わせた化学放射線治療も行われます。放射線治療の回数や強さは、がんの場所や患者さんの状態によって大きく異なります。