腎盂尿管がん

解剖と疫学

腎盂は腎臓の一部で尿管は腎臓と膀胱をつないでいる管です。腎臓で作られた尿を集めて膀胱に運びます。左右に一つずつあります。腎盂と尿管は併せて上部尿路がんと呼ばれます。腎盂尿管がんは50~70歳代に好発し、男女比はおよそ2:1です。喫煙は最も重要な危険因子です。また、芳香族アミンなどの染料との関係もあります。尿路結石や尿路閉塞に伴う慢性細菌性感染も危険因子です。抗がん剤のシクロフォスファミドやフェナセチン含有鎮痛剤などの長期連用によっても発症リスクは上昇します。
尿管腫瘍は約70%が下部尿管に発生します。膀胱がん治療後の腎盂尿管腫瘍の発生は2~4%、逆に腎盂尿管治療後に膀胱内再発は30~50%存在します。

診断

症状は血尿が最も多く、75%以上に認められます。次に多い症状は側腹部痛で約30%です 。また、無症状で他の疾患精査中に偶然発見される腎盂尿管腫瘍もあります。 CTなどの画像検査と尿細胞診検査を行います。

1)CT検査

CTでは、腫瘍の広がりのみでなく、リンパ節や他臓器への転移の検索にも有用です。造影剤の使用でより詳細な情報が得られます。(図1)

2)逆行性腎盂造影と尿細胞診

経尿道的に内視鏡を膀胱内に挿入し、膀胱内に開口する尿管の出口(尿管口)よりカテーテル(細い管)を逆行性(尿の流れに逆行するという意味です)に挿入することによって直接腎盂・尿管を造影、描出します。(図2)また、同時に分腎尿(片腎のみから採取される尿)を採取し、尿細胞診に提出します。このときの分腎尿の尿細胞診が陽性であれば、確定診断が得られたことになり治療に移ります。
尿細胞診は尿中にがん細胞が出ていないかどうかを調べる検査です。尿細胞診は5段階で評価されます。1と2は悪性所見がなく、3は疑陽性(悪性の疑いあり)、4と5は陽性でがんの存在が強く疑われます。腎盂・尿管がんの35-80%を検出できると言われており、がんの悪性度が高くなればなるほど検出率も上がります。腎盂尿管腫瘍の場合には逆行性腎盂造影時に必須です。尿管で狭くて尿管カテーテルの挿入ができない場合には超音波で経皮的に腎盂穿刺を行い、順行性に尿の採取を行うことがありますが、腫瘍細胞の播種の危険性があり、適応は慎重に決めます。

3)尿管鏡

逆行性腎盂造影で診断がつかなかった場合、尿管鏡検査を行います。膀胱鏡よりさらに細いファイバーを尿管内に直接挿入し、観察を行う検査です。このとき異常があれば生検を行うことも可能です。尿管鏡での生検の診断効率は80~90%程度ですが、深達度(T分類)の評価には限界があります。この検査は非常に有用ではありますが、検査中の腎盂内圧の上昇により腫瘍細胞の逆流が生じ、がん細胞の散布の危険性が指摘されています。また、検査手技に伴う尿管穿孔や出血など合併症の危険性もあり、適応は慎重に決めます。

治療

手術療法

腎尿管全摘除術が一般的です。この手術は、腎から尿管のすべてを切除します。副腎はがんの進行によっては切除することがあります。また、尿管は膀胱内へ続いているため膀胱の一部も切除します。腎臓は左右に1つずつあり、片方の腎臓を摘出してももう一方の腎臓が正常に機能すれば生活上の制限はほとんどありません。ただし手術前から腎機能が悪い人は注意を要します。手術方法は開腹手術と腹腔鏡手術がありますが、いずれの手術も全身麻酔下の手術となります。

  • 手術方法:開腹手術
  • 長所:リンパ郭清が確実に行える
  • 短所:傷が大きい(みぞおちから恥骨まで)
  • 手術方法:腹腔鏡手術
  • 長所:傷が小さい
  • 短所:リンパ郭清が不十分になる

腎盂・尿管がんに対するリンパ郭清の有効性に関してはまだ結論が出ていません。しかし、最近の報告ではリンパ郭清を支持する報告が多いため、当科ではリンパ郭清が確実に行える開腹手術を行っています。開腹手術の負担が大きく、術前検査でリンパ郭清をしなくても良いと判断された場合には腹腔鏡手術になることもあります。
リンパ郭清の範囲はがんの場所によって右の図のように決めています。腎盂にある場合、上部~中部尿管にある場合、下部尿管にある場合でそれぞれ異なります。

腹腔鏡の場合、腎~中部尿管までを腹腔鏡により切除し、下腹部正中切開(臍と恥骨の間をまっすぐ縦に切開します)にて下部尿管の摘出を行います。
手術の結果では化学療法を勧めることがあります。

化学療法

診断時すでに転移のある場合や治療後に転移が出現したときは、手術でがんを取り除くことはできません。抗がん剤による治療となります。
また、手術の根治性を高めるために術前もしくは術後に行われる場合もあります。
一般的に腎盂尿管がんの場合、肺やリンパ節転移は抗がん剤が効きやすく、骨や肝臓は効きにくいとされています。

治療法の選択に関して

III期までの治療は手術が基本です。III期の場合には進行しているようであれば抗がん剤治療を併用することがあります。全身状態が悪く手術ができない場合や単腎症例や腎機能障害例などで手術をすれば透析が必要になる場合などはそれぞれ考えなければなりませんが、根治を目指す場合には手術をした後に透析を続けることもあります。どうしてもだめな場合には腎温存療法を考えることになります。
IV期の場合、転移がなく周囲へのがんの浸潤が軽度であれば手術をしますが、転移や浸潤があることが多いので、まず抗がん剤治療を行います。転移があっても、リンパ節転移のみであれば、抗がん剤で縮小効果が得られれば当科では手術で腎尿管全摘除術を行っています。ただし、これはまだ一般的ではありませんので、手術をした方が良いかどうかはよく相談してから決めています。また、肺転移などがあっても、抗がん剤治療で転移巣が消失あるいは手術で転移巣も切除可能になった場合、腎尿管全摘除術を行っています。
一方、転移のある腎盂尿管がんは抗がん剤治療がメインになります。また、放射線療法を併用し、治療効果を高めることもあります。
抗がん剤の治療で効果を認めない場合や、体力的に治療が難しい方には、がんによる症状を和らげる緩和治療、精神的ケアなどを行い、QOL(生活の質)の向上に努めます。

さらに詳しく知りたい方へ