治療について

手術療法

腎尿管全摘除術が一般的です。この手術は、腎から尿管のすべてを切除します。副腎はがんの進行によっては切除することがあります。また、尿管は膀胱内へ続いているため膀胱の一部も切除することになります。尿路上皮がんは異時性・異所性多発することが多いため、画像で腎盂のみあるいは尿管のみにしか病変がなくても腎から尿管まですべてを切除することになります。腎臓は左右に1つずつあり、片方の腎臓を摘出してももう一方の腎臓が正常に機能すれば生活上の制限はほとんどありません。ただし手術前から腎機能が悪い人は注意を要します。手術方法は開腹手術と腹腔鏡手術がありますが、いずれの手術も全身麻酔下の手術となります。

尿路上皮がんの中で膀胱がんに関してはリンパ郭清をした方の予後が良くなることが証明されています。一方、同じ尿路上皮がんである腎盂・尿管がんに対するリンパ郭清に関してはまだ結論が出ていません。しかし、最近の報告ではリンパ郭清を支持する報告が多く、そのため当科ではリンパ郭清が確実に行える開腹手術を行っています。開腹手術の負担が大きく、術前検査でリンパ郭清をしなくても良いと判断された場合には腹腔鏡手術になることもあります。

開腹手術ではみぞおちのところから恥骨まで切開し、まず、腎と尿管を摘除します。尿管摘除時には膀胱壁も一部切除します。次いでリンパ郭清を行います。リンパ郭清の範囲はがんの場所によって右の図のように決めています。腎盂にある場合、上部~中部尿管にある場合、下部尿管にある場合でそれぞれ異なります。

腹腔鏡の場合、腎~中部尿管までを腹腔鏡により切除し、下腹部正中切開(臍と恥骨の間をまっすぐ縦に切開します)にて下部尿管の摘出を行います。

膀胱がんでは手術の前に抗がん剤治療を行った方の予後が良いと証明されたためでは術前化学療法が勧められていますが、腎盂尿管がんではまだ証明されていません。術後化学療法も同じですが、手術の結果では化学療法を勧めることがあります。

腎保存療法

尿管のみあるいは腎盂のみにがんがある場合、尿管部分切除術や腎盂部分切除術が行われることがあります。しかし、残った部分に再発する危険性があり、一般的ではありません。診断されたがんが低悪性度でステージも早期であれば再発率も低いのですが、術前に悪性度やステージを正確に診断するのは腎盂尿管がんでは困難です。また、腎盂尿管がんでも内視鏡手術、たとえばYAGレーザーなどでの腫瘍焼灼術が試みられていますがこれらもまだ一般的ではありません。
単腎、両側性腫瘍、あるいは全身状態が悪く手術ができない症例などに対して、腎温存治療の一つとしてBCG注入療法があります。BCGは弱毒化した(抗原性を失うことなく病原性を少なくした)結核菌で結核予防のための抗結核ワクチンです。膀胱上皮内がんなどには非常に有用で、BCG膀胱内注入は標準的な治療になっています。腎盂尿管がんに対してはまだ研究段階ですが、短期成績の報告では有効率は70-100%との報告もあります。具体的な方法は、腎盂内にカテーテル(細い管)を留置し、BCGを注入します。注入回数は6回が多いですが、1回投与量やBCGの注入濃度や注入速度なども一般化されておらず、問題点の多い治療法です。

化学療法

診断時すでに転移のある場合や治療後に転移が出現したときは、手術でがんを取り除くことはできません。このような場合は抗がん剤による治療となります。
また、手術の根治性を高めるために術前に行われたり、術後に行われたりする場合もあります。
抗がん剤には(1)メソトレキサート、ビンブラスチン、アドリアマイシン、シスプラチンの4種類を組み合わせた治療(M-VAC療法)と、(2)シスプラチンとゲムシタビンの2種類を組み合わせた治療(GC療法)の2通りがあります。現在は(2)のGC療法が主流で、当科でもこの治療を主に行っています。
一般的に腎盂尿管がんの場合、肺やリンパ節転移は抗がん剤が効きやすく、骨や肝臓は効きにくいとされています。GC療法で効果がなかった場合や、GC療法後に再発してきた場合の治療は困難で、現在標準的な治療はありません(当科ではパクリタキセルなどの抗がん剤を使用し、治療するようにしています)。

放射線療法

放射線療法は、高エネルギーのX線でがん細胞を傷害し、がんを小さくする効果があります。しかし、腎盂尿管がんでは放射線の効果はあまり期待できません。痛みなどの症状緩和に使用することがほとんどですが、病状によっては抗がん剤と併用し縮小効果が期待できる場合があります。

(文責:橋根、2013年10月)