転移のある膀胱がん

転移のある膀胱がん

診断時すでに転移のある場合や治療後に転移が出現したときは、手術でがんを取り除くことはできません。このような場合は抗がん剤による治療となります。
膀胱がんで転移をきたしやすい場所は肺、リンパ節、肝臓、骨などです。抗がん剤には①メソトレキセート、ビンブラスチン、アドリアマイシン、シスプラチンの4種類を組み合わせた治療(M-VAC療法)と、②シスプラチンとジェムザールの2種類を組み合わせた治療(GC療法)の2通りがあります。現在は②のGC療法が主流で、当科でもこの治療を主に行っています。
一般的に膀胱がんの場合、肺やリンパ節転移は抗がん剤が効きやすく、骨や肝臓は効きにくいとされています。GC療法で効果がなかった場合や、GC療法後に再発してきた場合の治療は免疫チェックポイント阻害薬のキイトルーダによる治療が標準治療です。

GC療法について(G:ゲムシタビン、C:シスプラチン)

がんの病巣が大きく手術で取り切れない場合や、転移(がんが全身に広がっている)している場合に行う化学療法です。このような場合の標準的治療はGC療法です。この2種類の抗がん剤を使用することで約50%にがんの縮小が見られ、約10%はがんが消失します。がんが小さくなり、手術可能になった場合や転移巣が消失した場合には手術も考慮します。

ここで重要なことが一つあります。転移がある場合にこの化学療法を行った場合、約50%に効果が認められるのですが、効果の持続時間が平均で10ヶ月程度しかないと言うことです。下のグラフは海外で行われた大規模臨床試験の結果です。GC療法は点線で示されています。対象はMVAC療法(4剤の抗がん剤を使用した治療)で、この治療はGC療法が出現する前の標準的治療でした。2群間に差はないのですが、GC療法の平均生存期間は14ヶ月です。もちろんもっと長く効果が持続することもあれば逆の場合も十分あります。

<治療期間>

4週間を1コースとして繰り返し行います。術前および術後の場合は2-3コース、転移を有する場合は通常6コース行います。

<治療内容>

治療内容は1日目にゲムシタビンを点滴し(約5時間)、2日目にシスプラチンを点滴します(約9時間)。さらに8日目、15日目にゲムシタビンを点滴します(約1時間)。4日目までは抗がん剤以外の点滴もあります(約6時間)。副作用によっては点滴が追加になります。1コース4週間で、2コース目以降はこの投与方法の繰り返しとなります。治療効果や副作用をみて、次のコースを開始します。8日目以降は週に1回の点滴だけなので体調が良ければ外来での治療をすすめます(通院治療)。
その場合、次コースのはじめだけ入院することになります。治療は、
 ①合併症により治療継続困難となった場合 
 ②治療にもかかわらず、病状が悪化してきた場合
に中止となります。合併症(主に骨髄抑制)の確認の為に入院中は頻回に採血をさせて頂きます。時に連日となる場合もあります。

<合併症>

1.骨髄抑制
貧血(約30%)、白血球減少(約70%)、血小板減少(約55%)
白血球減少が確認されると白血球を増やす注射を使用しますが、この時期の感染症は致命的で注意が必要です。また、感染症がなくても発熱する場合があり、点滴による治療が必要になります。また、貧血や血小板減少が重度な場合には輸血が必要になります。
2.食欲不振(約20%)など消化器症状、脱毛(約10%)、発疹(約10%)
3.間質性肺炎(3%)
薬剤性の肺炎が起きる可能性があります。重症の場合には致死的な合併症になる恐れがあります。息苦しさなどありましたら医師にお伝えください。また、肺炎チェックのために抗がん剤投与前には胸部レントゲン写真を撮ります。
4.聴力低下・難聴(1.4%)
シスプラチンの投与量が多くなると出現しやすくなります。
5.その他(2%未満)
心不全や腎不全、アレルギー反応などの重篤な合併症の報告があります。
6.その他(頻度不明)
肝機能障害、末梢神経障害(手足のしびれ)、皮膚障害などの報告があります。
7.治療関連死
肺炎や他の感染症などにより致死的な合併症が1.0%報告されています。

キイトルーダ(ペンプロリズマブ)による治療について

キイトルーダは抗PD-1抗体と呼ばれる薬剤です。免疫細胞などの表面にあるPD-1というタンパク質と、がん細胞表面に出現したPD-L1というタンパク質とが結合すると免疫細胞はがん細胞を攻撃する免疫機能が阻害されることが知られています。キイトルーダはこの結合を阻害(免疫チェックポイント阻害作用)することにより、がん細胞への免疫機能にブレーキがかからないようにして、免疫細胞などががん細胞を攻撃する力を高め、がんの縮小効果を示すと言われています。

一次治療のプラチナ製剤併用化学療法後に再発又は進行した、あるいはプラチナ製剤併用化学)療法による術前もしくは術後補助化学療法の治療終了後12か月以内に再発または進行した局所進行または転移性の尿路上皮癌542例(日本人患者52例含む)に対しキイトルーダと化学療法(パクリタキセルまたはドセタキセルまたはビンフルニン(国内未承認))を比較する試験(KETNOTE-045試験)において全生存期間中央値が10.3か月(化学療法群は7.4か月)で有意に延長しました。奏効率(腫瘍の直径が30%以上縮小する割合)は21.1%(化学療法群は11.4%)で有意差を認めました。

キイトルーダは点滴薬です。尿路上皮癌の患者さんの場合、通常は1回あたり、200mgを3週間間隔で点滴して治療を行っていきます。1回の点滴は45-60分ほどかかります。副作用が軽く、効果を認めている間は治療を続けていきます。

治療開始後、副作用の状況に応じ、主治医の判断で投与スケジュールをあけて治療を行うこともあります。

 
点滴時間
点滴間隔
1日目
22日目
43日目
・・・
30分
(3週間毎)
・・・

キイトルーダによる重篤な副作用として間質性肺炎あるいは肝機能障害、内分泌機能障害などに十分に注意する必要があります。また、キイトルーダを投与している間は、定期的に胸部レントゲン写真やCT検査、および血液検査などをしていきます。

キイトルーダは他のお薬と併用すると効果が弱くなったり、望ましくない副作用が起こったりすることがありますので内服中の薬などがある場合は、医師または薬剤師にお知らせ下さい。

予想される主な副作用

(1)頻度が高いもの

キイトルーダを投与された266例中162例(60.9%)に副作用が認められました。主な副作用(10%以上)は、そう痒症52例(19.5%)、疲労37例(13.9%)、悪心29例(10.9%)でした。

(2)頻度は少ないものの発症すると重篤となるおそれのある副作用

①間質性肺疾患(3.2%)

    

②大腸炎(1.6%)、重度の下痢(1.2%)

    

③皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)(0.1%未満)、多形紅斑(0.1%未満)

    

④類天疱瘡(0.1%)

    

⑤神経障害:末梢性ニューロパチー(0.7%)、ギラン・バレー症候群(0.1%未満)

    

⑥肝機能障害、肝炎:AST、ALT、γ-GTP,ALP、ビリルビン等の上昇を伴う肝機能障害(7.5%)、肝炎(0.6%)

    

⑦甲状腺機能障害:甲状腺機能低下症(8.1%)、甲状腺機能亢進症(3.8%)、甲状腺炎(0.6%)

    

⑧下垂体機能障害:下垂体炎(0.3%)、下垂体機能低下症(0.2%)

    

⑨副腎機能低下症(0.4%)

   

⑩1型糖尿病(0.2%)

    

⑪腎障害:腎不全(0.4%)、尿細管間質性腎炎(0.2%)

    

⑫膵炎(0.3%)

    

⑬筋炎(0.2%)、横紋筋融解症(頻度不明)

    

⑭重症筋無力症(0.1%未満)

    

⑮心筋炎(0.1%未満)

    

⑯脳炎(0.1%未満)、髄膜炎(0.1%)

    

⑰免疫性血小板減少性紫斑病(頻度不明)

    

⑱溶血性貧血(頻度不明)

    

⑲赤芽球癆(頻度不明)

    

⑳インフュージョンリアクション(2.1%)

免疫反応に関連した副作用

免疫に関連した副作用として間質性肺疾患、重症筋無力症、大腸炎、肝炎、筋炎、1型糖尿病、内分泌機能障害(甲状腺機能異常、副腎機能異常など)、腎炎、発疹、乾癬、脳炎、神経障害などが報告されています。これらは投与終了後、数週間から数か月経過してから発現することもあります。

対応方法

免疫反応に関連した中程度異常の副作用が発現した場合、副腎皮質ステロイドホルモン剤による治療が必要になる場合があります。また症状が回復した場合、症状の再燃を防ぐため、1か月以上かけて副腎皮質ホルモン剤を徐々に減量していきますが、長期間にわたり投与が必要な場合もあります。また症状が残存し持続する可能性もあります。さらに副腎皮質ホルモン剤によっても症状の改善が認められない場合には、他の免疫抑制剤等の追加が必要になる場合もあります。
また、これらの副腎皮質ホルモン剤や免疫抑制剤を長期間使用しなくてはならない場合、免疫力低下に伴い感染症にかかりやすくなるリスクが上昇したり、その他副腎皮質ステロイドホルモン剤の長期投与により、糖尿病、胃潰瘍、筋力低下、肥満、骨粗しょう症、皮膚萎縮、白内障、不眠などの精神症状のリスクが上昇する可能性があります。

これら以外にも全身全身にさまざまな副作用が起こる可能性があります。また、これら副作用が重症の場合には、生命に危険が及ぶことや後遺症となって永続的に残ることもあります。その都度、提供可能な範囲での治療を致します。

治療にかかる費用について

これら薬剤はすべて厚生労働省に承認、認可されている薬剤であり、健康保険の適応となります。2018年1月現在、キイトルーダの薬価は、200mgを投与した場合、1回あたり約820,000円になります。患者さんの負担割合に応じ、これら薬剤費の1~3割を負担していただくことになります(実際には薬剤費以外に、検査料、診察料、入院費用、処方箋料等も必要となります)。高額な医療費に対しては高額療養費制度があります。詳細につきましてはがん相談支援センターにお問い合わせください。

その他の治療の有無およびその内容について

(1)これら以外の薬剤を用いた抗がん剤治療
(2)がんに対して積極的な治療を行わず、痛みや苦しみなどの症状を軽減するための治療(緩和治療)などがあります。