診断について

解剖と疫学

前立腺は男性の膀胱の下にある栗の実大の器官で、発生から増殖・成長まで男性ホルモンに依存しています。前立腺の働きは、前立腺液を分泌して、精子の運動・保護に関与したり、排尿にも関与したりしています。

過形成のない正常前立腺は加齢に従って萎縮していましたが、食生活の欧米化により現在では 80%以上の人に前立腺肥大が発生しています。

前立腺に発生する腫瘍には良性疾患の前立腺肥大症と悪性疾患の前立腺がんがあります。肥大症の症状は排尿困難や残尿感、夜間頻尿などがあります。前立腺がんもこれらの症状が出ることがありますが、初期には全く症状がないことがほとんどです。がんの進行に伴い、いろいろな症状が出てきます。

前立腺がんは、社会の高齢化や食生活の欧米化に伴い、その発生率は非常に増加しています。2018 年のがん統計予測では、前立腺がんは男性がんの4位です(1 位:胃がん、2 位:大腸がん、3 位:肺がん)。(国立がん研究センター)2016 年全国がん登録では前立腺がんは男性の中で 2 番目に多いがんでした。

診断

前立腺がんを予防することはまだ不可能ですが、診断方法は確立されています。血液検査(PSA:腫瘍マーカー)のみでがんの疑いのある人を見つけることができます。PSA とは、Prostate Specific Antigen:前立腺特異抗原の略語で、前立腺で作られるタンパク質の一種です。正常の前立腺でも産生されますが、がん細胞で多く産生されることから、前立腺がんでは2血液中の数値が高くなります。疑いのある人には前立腺生検を行い、確定診断がえられます。せっかく血液検査で異常が指摘されても、生検を受けなければ意味がありませんので検査はぜひ受けるようにしてください。

前立腺がんは血液検査のみで疑いのある人とない人を区別できます。どこでも検査可能で、精度も高く、数値で客観的に示されるため、検診にも非常に向いています。検診を導入すれば前立腺がんの死亡率が減少したという研究結果も欧米から報告されています。早期発見できれば前立腺がんは根治できるようになっています。検診を受け早期発見につとめましょう。

顕微鏡で前立腺がんを観察した場合に、がんの悪性度を 5 段階に分類しスコア化します(1-5)。この分類をグリソン分類と呼びます。
面積の広い 2 つの組織像のグリソン分類を加算したものをグリソンスコア(2-10)とよび、悪性度の指標にします。グリソンスコアは点数が高いほど悪性度が高く進行の早いがんといえます。
このグリソンスコアと PSA、臨床病期を組み合わせてリスク分類がなされ、治療方針が決まります。

臨床病期(CT、MRI、骨シンチの結果)とリスク分類

PSA、グリソンスコア、臨床病期を組み合わせて、以下のようなリスク分類を行います。

  PSA グリソンスコア 臨床病期

超低リスク

10ng/ml未満

6まで
生検陽性2本まで
陽性の中で面積50%以下

T1c

低リスク

10ng/ml未満

6まで

T1c,T2a

中間リスク

10-20ng/ml

7

T2b-T2c

高リスク

20ng/ml超

8以上

T3a

超高リスク

T3b-T4

リスク分類は数種類あり、施設によって若干違いますが、当院では上記のリスク分類を採用しています。このリスク分類は、治療後の再発のリスクを表しており、治療を決める上で重要な要素になります。

予後

2004年に日本泌尿器科学会から右図のデータが公表されました。
転移の無い症例では5年がん特異生存率(がんが原因で亡くならない)は98.4%、リンパ節転移や骨転移がある症例では、64.2-66.7%、臓器転移がある症例では56.8%でした。