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補完代替医療の心理・行動的側面に関する研究

大阪大学コミュニケーションデザイン・センター/人間科学研究科/医学系研究科
平井 啓

近年、がん患者さんの補完代替医療(CAM)は非常に注目を集めています。
特に、患者さんの側から、少しでも自分の体にとって良い影響をあるものを摂りたい、病気の治療を補助するようなものはないかという強い要望があります。
また、いわゆる西洋医療での治療が限界となってしまった患者さんは、確率は低くてもひょっとしたら効果があるかもしれない何かできることを求めています。
このようながん患者さんのCAMの実態について、2001年から2004年までの厚生労働省の「我が国におけるがんの代替療法に関する研究」班ではじめて実態を調査しました。
全国の3100人のがん患者を対象とした調査を実施した結果、約45%がなんらかのCAMを利用していることが明らかになりました。
すなわち、すでに半数近くの患者さんがCAMを使っているにもかかわらず、医療の側はその実態に追いついていなかったのです。

このような実態調査の結果を受けて、がん患者さんがなぜCAMを利用するのか、そこに共通するメカニズムはないのか、ということを目的に調査研究を行いました。
われわれは、がん患者さんのCAMの利用を一つの行動としてとらえ、その行動を起こさせる意思決定と、その行動を維持させる要因を明らかにするために、汎理論モデル(Trans-theoretical Model; TTM)と計画的行動理論(Theory of Planed Behavior; TPB)と呼ばれる2つの心理学の理論を用いてみました。
このモデルでは、CAMの利用を、「CAMの利用に関して全く関心がない」前熟考期の人々、「CAMの利用に関心はあるが、まだ利用していない」熟考期の人々、「CAMの利用について準備をしている」準備期の人々、「CAMを利用している」実行期の人々、 「CAMの利用を継続している」維持期の人々の5つのステージにわけて、 そのステージが、CAMに対するメリットとデメリット、家族や医療者からの影響、コントロール感などの要因から説明されることを想定しました。

日本の3つの地域のがん専門病院の患者さん1100人を対象に、質問紙調査を実施し、521名の患者さんから有効な回答を得ることが出来ました。
その結果、17%患者さんが前熟考期、43%の患者さんが熟考期、6%の患者さんが準備期、14%の患者さんが実行期、20%の患者さんが維持期でした。この結果から、「興味はあるが、実際にはまだ利用していない」という潜在的CAM利用者が多数いることが明らかになりました(図1)。

図1

この患者さん達は、何かのきっかけがあると「準備期」へ移行する可能性を秘めています。

構造方程式モデル分析という統計解析を行い、患者さんの背景要因や、メリット(Pros)、デメリット(Cons)、自己効力感、家族の期待、医療者の規範、心理的苦痛とCAM利用のステージの関係が明らかにしました(図2)。

図2

この中で最も影響が強かったのは、「家族の期待」でした。またメリット(Pros)の認識が高いと、CAM利用のステージが高く、デメリット(Cons)の認識が高いと、CAM利用のステージが低い傾向がありました。心理的苦痛の高さはCAMの利用に大きな影響を与えていませんでした。
一方で患者さんの身体症状は心理的苦痛には影響を与えていましたが、CAM利用のステージには影響を与えていませんでした。

以上のことから、CAMの利用については態度を中心とする心理的要因が強く影響していることがあきらかになりました。
一方で、心理的苦痛のような感情状態のような心理的要因はあまり関係していないことが明らかになりました。
よって、患者さん、ご家族の持つ態度へ最も影響を与えると考えられるCAMに関する情報提供の仕方によりCAMの利用のステージが変化する可能性があるということです。
つまり、CAMに関する情報提供のあり方について検討し、体系を整備していく必要があるということです。
このことは現在の研究班の行っている信頼できる情報をつくるための研究の継続や、ホームページや患者向けガイドブックなどのメディアを通じた情報提供活動を裏付ける結果であると思います。

【文献】
Hirai K, Komura K, Tokoro A, Kuromaru T, Ohshima A, Ito T, Sumiyoshi Y, Hyodo I (2008) Psychological and behavioral mechanisms influencing the use of complementary and alternative medicine (CAM) in cancer patients. Ann Oncol 19:49-55

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