トップページ >> 研究業績 : がん患者さんにおけるストレスと補完代替療法
がん患者さんにおけるストレスと補完代替療法
近畿中央胸部疾患センター 心療内科
所 昭宏
1.がん医療におけるこころの医学・医療
〜サイコオンコロジー(精神腫瘍学)〜
わが国でも2007年4月にがん対策基本法が施行され、がんと上手に闘い、向き合い、普通の生活を送ることを目指すことが始まりました。
サイコオンコロジー(精神腫瘍学)の概念は、がんの診断、治療前後のすべての病期において、「がん患者や家族の心理や情緒的反応(がんが、こころや行動に与える影響)」と「心理社会的、行動科学的因子が、がんの発生や進展に与える影響(こころや行動が、がんに与える影響)」についての2方向からアプローチする「がんとこころ」の医学・医療のことです。(図1)
2.がん患者さんのストレス
がん患者さんは、闘病に際して、以下の6Dと言われるストレスと直面すると言われています。
- 死の恐怖(Death)
- 医療者への依存(Dependency)
- 人生目標の中断(Disability)
- 人間関係の途絶(Disruption)
- 容姿の変貌(Disfigurement)
- 倦怠、痛み、臭いなどの不快感(Discomfort)
また、わが国の厚生労働省「がん社会学」に関する合同研究班報告書によると、がん体験者の悩みや負担の上位5つは、
- がんの再発、転移の不安、将来への漠然とした不安などのこころの問題
- がんの症状、がん治療の副作用や後遺症などの身体的苦痛
- 家族・周囲の人の関係
- 就労・経済的なこと
- 生き方・生きがい・価値観
と報告されています。
3.がん患者さんのメンタルケアの必要性
上記のようにがん患者さんには多種多様な心身両面のストレス要因とそれによる全人的な苦痛・苦悩があります。
これまでの研究によると、がん患者さんで医療的介入が必要な精神心理的負担の状態を呈する者は約半数おり、その内訳は、適応障害(抑うつ、不安)、抑うつ、せん妄が3大症状であることが判っています。
国立がんセンターの精神科コンサルテーションの集計によると、やはり3大症状で約70%を占める事が報告されています(図2)。
このことより、がん医療において患者さんのこころに配慮した診療や専門的なメンタルヘルスケアが必要であることが伺えます。
4.がん患者さんと補完代替療法 〜医療者とよく相談しよう!〜
近年、米国の潮流を追いかけるように、わが国においても補完・代替療法(CAM)は、需要、利用ともに高まってきています。
しかし効果、安全性についての科学的検証は十分なされていません。
「何故がん患者は科学的証拠に乏しい、CAMを利用するのか?」は、CAMの心理・行動側面に関する研究を御覧いただきたいのですが、がんの医療現場でこのCAMのことを、患者さんも約6割が医師に相談せず、医師も約8割が患者さんのCAM利用について問診しないというのが、わが国のがんのCAMに関するコミュニケーションの実態です。
そこで現時点でお薦めしたいことは、
「CAMの情報を得る」⇒
「CAMを理解する」⇒
「CAMを医療者とよく相談する」⇒
「CAM利用の意思決定をする」
というプロセスを、患者・家族-医療者相互で重要視し、率直でオープンなコミュニケーションをはかっていくことです。もっとCAM利用に関して医療者とよく相談していきましょう!