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終末期がん患者さんにおける補完代替医療

静岡県立静岡がんセンター緩和医療科
大坂 巌

補完代替医療(CAM)は緩和医療や支持療法のなかで、重要な要素であると考えられるようになってきています。
全米調査によると、がん患者さんの69%が何らかのCAMを少なくとも1回は利用しています(参考文献1)
わが国の全国調査においても、がん患者さんの約45%が何らかのCAMを利用していることが明らかにされており、緩和ケア病棟に入院中のがん患者さんではさらに頻度が高い傾向があることも明らかにされました(参考文献2)
また、CAMに対する医療者側の関心は低く、主治医・患者間でのCAMに関する情報のやり取りが少ないという問題点も浮き彫りにされました。

緩和ケア病棟対象の調査では、80%の施設が患者さん・家族からCAMに関する質問を受けており、最も多い質問は、現在利用しているCAMを継続できるかどうかということでした。
これらの結果からも終末期がん患者さんのCAMに対する意識は高く、医療者側のCAMへの認識が問われる時勢にあると考えられます。
終末期がん患者さんのニードを満たすには通常の治療やケアのみでは不十分であり、CAMが患者さんのQOLを向上する可能性があることは以前から指摘されてきています(参考文献3)
CAMは絶望の淵にあるがん患者さんにとって心地よさを与え、QOLを高めるものであると考えられています。
具体的にはくつろぎを促し、ストレスや不安を和らげ、痛みやその他の症状を緩和し、通常の抗がん治療の副作用を軽減し、よく眠れるようにすることです。
これらのどれもが、患者さんの生きがいとQOLを高めることになります(参考文献4)
有効性が確認されているものとして、疼痛、呼吸困難、倦怠感、化学療法(抗がん剤)による悪心嘔吐、放射線治療による口腔内乾燥症などの症状に対する鍼灸、不安や嘔気に対するマッサージなどがあり、その他にも心理的苦痛に対して、リラクゼーション、イメージ療法、催眠療法、瞑想などの心理療法あるいは心身療法が有効であることが示唆されています(参考文献5)
しかし、症状緩和に寄与する可能性のあるCAMの多くは、未だに科学的検証がほとんどされていないというのが現状です。
今後は質の高い臨床試験を通して、CAMの安全性および有効性が確立されなければなりません。

最後に、終末期がん患者さんにとって症状緩和は目標であって、目的ではありません。
終末期がん患者さんへのケアの目的は、患者さんの個別性・価値観を尊重しつつ、身体的・心理社会的・実存的側面をも含めて包括的に対処することです(参考文献6)
終末期がん患者さんのQOLを高め、患者・家族の希望を支える手段として、CAMの果たす役割は極めて大きいと考えられます。

【参考文献】

  1. Richardson MA, Sanders T, et al. Complementary/alternative medicine use in a comprehensive cancer center and the implications for oncology. J of Clinical Oncology; 18: 2505-2511, 2000
  2. Hyodo I, Amano N, Eguchi K et al. Nationwide survey on complementary and alternative medicine in cancer patients in Japan. J of Clinical Oncology 23: 2645-2654, 2005.
  3. Bullinger M. Quality of life assessment in palliative care. J Palliat Care 1992; 8: 34?39.
  4. Ernst E. Complementary therapies in palliative cancer care. Cancer 2001; 91: 2181?2185.
  5. Wendy A. Weiger, Michael Smith, Heather Boon, et al. Advising patients who seek complementary and alternative medical therapies for cancer. Annals of Internal Medicine 137: 889-903, 2002
  6. Sepulveda C, Marlin A, Yoshida T, Ullrich A. Palliative care: the World health organization's Global perspective. J Pain Symptom Manage 2002; 24: 91-96.

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