腎がん

1.診断について

腎がんの臨床症状として古典的3主徴が有名です。これは、血尿、腹部腫瘤、疼痛(腰背部痛)のことですが、現在診断される腎がんでこの3主徴が揃うのはわずか数%で、70%以上の腎がんは偶発がんです。偶発がんとは、症状がなく発見される腎がんのことで、たとえば人間ドックで行った超音波検査で偶然発見された、などのケースです。腎がんでは無症候性顕微鏡的血尿(尿潜血とほぼ同じ)が約40%に見られ、血尿精査で施行するCTや超音波検査で見つかることも多いのです。偶発がんの多くは小さな腫瘍であるため、症状があって見つかる腎がんより予後がよいことが知られています。

腎がんの診断は、造影CTによりほとんどの場合可能です。最近のマルチスライスCTによってダイナミック(動脈相)および静脈相の撮影を行えば診断がつきます(図)。

2.治療について

1)手術療法

手術には腎摘除術と腎部分切除術があり、それぞれの手術に開腹手術と腹腔鏡手術があります。腎部分切除術ではロボット支援手術が可能です。
腫瘍径が 4cm 以下の T1a 腎細胞癌は腎摘除術ではなく腎部分切除術が推奨されています。
また 4cm から 7cm の腎細胞癌にも部分切除術の適応が拡大されつつあります。

 
腎摘除術
腎部分切除術
 
ステージが同じなら再発率、生存率は同じ
 
出血量、入院期間も同じ、手術時間は部分切除が長い
問題点
<腎機能障害>
単腎になると5年後には15%-22%腎機能が悪化するといわれている。
(クレアチニンが 2.0 以上になる)
腎障害から心血管系疾患などの他因死が多くなる
<残存腎への再発>
1%以下と報告されているが可能性あり、
切除断端陽性や腎がんのタイプによっては再発のリスクが高くなる
<腎摘には無い合併症>
切除部位からの出血・尿漏、仮性動脈瘤など
腎動脈を一時的に遮断するため腎機能が回復しない可能性あり
 
開腹
腹腔鏡
開腹
腹腔鏡
長所
大きな腫瘍で合併切除が
必要な場合にも対応可能
傷が小さい(術後の痛みが少ない)
拡大された視野で手術が可能
出血が少ない
従来からの方法
腫瘍がどこにあっても可能
傷が小さい(ポートの傷のみ)
拡大された視野で手術が可能、
全員がモニターで同じ視野を共有できる
短所
傷が大きい(術後疼痛あり)
術後の回復がおそい
大出血・癒着による合併切除など
不測の事態には対応困難
ポート部再発の可能性あり
傷が大きい(術後疼痛あり)
術後の回復がおそい
腫瘍が埋没している場合には困難
ポート部再発の可能性あり

ロボット支援手術の特徴は、自由度の高い手術用鉗子や 3 次元画像により,繊細で安全な 手術操作が可能であることです。このことにより従来の腹腔鏡で制限されていた欠点を補い 温阻血時間の短縮につながるとされています。温阻血時間短縮は腎機能温存に重要です。

2)薬物療法

現在表に示すように 2 種類の免疫チェックポイント阻害剤と 6 種類の分子標的薬が使用で きます。この表を見るとスーテントの有効率が最も高いように思えますが、そうではありま せん。対象患者が違うため、有効率の比較を直接することは出来ません。

薬剤
コントロール薬
奏功率
無増悪生存期間中央値
(コントロール薬との差)
生存期間中央値
(コントロール薬との差)
ネクサバール
プラセボ
10%
5.5 ヶ月(2.7 ヶ月)
17.8 ヶ月(なし)
スーテント
インターフェロン
47%
11.0 ヶ月(5.9 ヶ月)
26.4 ヶ月(なし)
アフィニトール
プラセボ
1%
4.0 ヶ月(2.1 ヶ月)
未達
トーリセル
インターフェロン
8.6%
3.8 ヶ月(1.9 ヶ月)
10.9 ヶ月(3.6 ヶ月)
インライタ
ネクサバール
19.6%
8.3ヶ月(2.6ヶ月)
20.1ヶ月(なし)
ヴォトリエント
スーテント
31%
8.4ヶ月(なし)
28.3ヶ月(なし)
オプジーボ
アフィニトール
25.1%
4.6 ヶ月(なし)
25.0ヶ月(5.4ヶ月)
ヤーボイ+オプジーボ
スーテント
41.6%
11.6 ヶ月(3.2 ヶ月)
未達

奏功率:腫瘍が 30%以上縮小する
無増悪生存期間:腫瘍が悪化せず、薬の効果がある期間

内服薬は
ネクサバール、スーテント、アフィニトール、ヴォトリエント、インライタです。この中でスーテントは通常 4 週内服し 2 週間休薬します。副作用のため内服期間を短くすることもあります。その他の薬は毎日内服します。
点滴は
トーリセル(毎週 1 回)、オプジーボ(2週間に 1 回)、ヤーボイ+オプジーボでは、はじめヤーボイとオプジーボを 3 週間間隔で 4 回点滴しその後、オプジーボのみを 2 週間間隔で点滴します。

薬剤
頻度の高いもの(10%以上)
重篤なもの(G3 で 5%以上)
ネクサバール
手足症候群 57%、高血圧 34%、下痢 19%、脱毛 17%、
アミラーゼ 14%、発疹 14%、肝機能異常 11%
手足症候群、肝機能異常
スーテント
血小板減少 61%、手足症候群 37%、甲状腺機能低下 36%、
高血圧 35%、白血球減少 33%
血小板減少、白血球減少、高血圧、
手足症候群
アフィニトール
口内炎 44%、発疹 30%、貧血 28%、疲労 25%、下痢 24%
間質性肺炎、高血糖、貧血
トーリセル
発疹 59%、口内炎 57%、コレステロール 43%、食欲不振 37%、
高血糖 32%
高血糖、口内炎、間質性肺炎、
感染症、胸水
インライタ
高血圧 76%、手足症候群 71%、下痢 63%、発声障害 55%、疲労 53%、
蛋白尿 40%、甲状腺機能低下 39%、口内炎 32%
高血圧、手足症候群、疲労、
蛋白尿、食欲不振
ヴォトリエント
下痢 53.4%、高血圧 42.8%、疲労 38.4%、肝機能障害 35.1%、
悪心 33.9%、毛髪変色 32.9%、食欲不振 28.9%、味覚異常 21.8%、
手足症候群 20.7%
高血圧、肝障害、疲労、下痢、
手足症候群
オプジーボ
疲労 33%、掻痒症 14%、悪心 14%、下痢 12%、食欲減退 12%、
発疹 10%
なし
※免疫関連有害事象に注意必要
ヤーボイ+オプジーボ
疲労 36.9%、そう痒症 28.2%、下痢26.5%、発疹 21.6%、悪心 19.9%、
リパーゼ増加 16.5%、甲状腺機能低下症 15.5%
間質性肺疾患、大腸炎、下痢、
甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症

以上のように、各薬剤にはそれぞれ特徴があり、また出現する副作用も違います。また、欧 米人と日本人とで副作用の出現率が異なることにも注意が必要です。

3.治療法の選択

がんの種類によっては放射線や抗がん剤が有効なものがありますが、腎がんの場合初回治療としてこれらは有効ではありません。新薬の登場により大きく変わりましたがそれでも手術には遠く及びません。そのため、腎がんでは手術が第一選択になります。ステージⅠからⅢまではまず手術可能と考えられますので手術を行います。Ⅲ期の中で下大静脈に腫瘍塞栓がある場合には適応は慎重になりますが、まず手術を考えるべきです。手術後の再発予防に関しては現在のところ適切な治療はありません。もし再発すれば、そのときの状況に応じて転移巣の切除や薬物治療を開始することになります。

ステージⅣの場合でも、手術が可能であれば転移巣の切除も含めて手術を考えます。転移巣の切除は出来ないが、原発巣(腎)の摘出が可能であれば手術を行い、その後薬物治療を行います。最近の報告で、手術後にスーテントを内服した群と手術をせずにスーテントのみで治療した群でスーテント群が良かったという報告があり、ステージ 4 の手術は再検討が必要になってきています。もし手術が不可能であればはじめから薬物治療を開始することになります。
薬物療法の場合どの薬剤を使用するかが問題となります。2019 年に提唱された海外のガイドラインから日本で使用可能なものを表に示しました。

組織型および
IMDC リスク分類
初回治療
セカンドライン治療
サードライン治療
淡明細胞がん
予後良好
スーテント
ヴォトリエント
オプジーボ
インライタ*
アフィニトール*
インライタ*
アフィニトール*
中間
ヤーボイ+オプジーボ
スーテント*
ヴォトリエント*
前治療が TKI ならオプジーボ
TKI*
別の TKI*
アフィニトール*
予後不良
ヤーボイ+オプジーボ
スーテント*
ヴォトリエント*
前治療が TKI ならオプジーボ
TKI*
別の TKI*
アフィニトール*
非淡明細胞がん
スーテント
ヴォトリエント

アフィニトール*
肉腫様成分なら
 ヤーボイ+オプジーボ*
 スーテント*、ヴォトリエント*

*:オプション
チロシンキナーゼ阻害剤(TKI);ソラフェニブ、スーテント、インライタ、ヴォトリエント

薬物療法以外の治療として、がんに対しては積極的な治療を行わず、痛みや苦しみなどの症状を軽減するための治療、緩和治療があります。

(2019年5月文責;橋根)

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