治療について

手術療法

手術には腎摘除術と腎部分切除術があり、それぞれの手術に開腹手術と腹腔鏡手術があり ます。

腎摘除術は、腎動脈と腎静脈を結紮して腎をすべて取り出す手術です(場合によっては副腎も取り出します)。一方、腎部分切除術は、腫瘍の部分のみを切り取り、腎臓を残す手術です。手術自体は腎摘除術のほうが容易で、腎部分切除術は切り取った部分からの出血や尿漏れなど、腎摘除術にはない合併症が発生する危険性があります。また、腎部分切除術では、残存腎への再発も心配されますが、4cm 以下の腫瘍であれば残存腎への再発は 1%程度と報告されています。

腎摘除術か部分切除術かの選択ですが、一般的に腫瘍径が 4cm 以下であれば腎部分切除術の適応になります。逆に 4cm を超える腫瘍であれば腎摘除術が一般的になります。最近の研究では、腎摘除術後長期間経過すると腎機能低下をきたし、そのことに起因する合併症(たとえば心血管系の病気)での死亡率が上昇することが報告されています。腎部分切除術では腎摘除術に比較し腎機能の低下は少ないため、部分切除可能な 4cm 以下の腫瘍はやはり部分切除術を第一に考えるべきです。最近では腎機能温存の観点から、腎部分切除術の適応は徐々に拡大されてきており、4cm を超えても技術的には可能とされる報告がみられるようになってきました。2016 年にロボット支援腎部分切除術が保険収載され、7cm 以下の腎悪性腫瘍は部分切除が可能になり、適応が拡大してきました。また、単腎症例、両側同時性症例、腎機能低下症例、VHL 病などの場合は 4cm を超えても適応となります。一方、4cm以下の腫瘍であっても、腫瘍が腎静脈などに浸潤している場合などには腎部分切除術が不可能な場合があります。

開腹手術か腹腔鏡手術(ロボット支援手術含む)かの基準は施設によって若干の差がありますが、やはり低侵襲手術の時代ですので可能な限り腹腔鏡で行っている施設がほとんどです。ただ、腫瘍が周囲に進行している場合や、下大静脈内に進行している場合などには通常腹腔鏡手術はできません。開腹による手術方法は腫瘍の大きさや場所により切開方法が異なります。腎摘除術の場合は正中切開が、部分切除術の場合には側臥位による腰部斜切開がよく選択されます。

腹腔鏡による手術は、トロッカーと呼ばれる 3-4 カ所の操作用孔(5-12mm)を介し、カメラと器具を挿入して行われます。腎摘除術の場合には腎を取り出すために 5 cm 程度の切開が必要になりますが、部分切除術の場合にはトロッカーのみの傷ですみます。

補足)ロボット支援腎部分切除術について

現在腫瘍径が 4cm 以下の T1a 腎細胞癌は腎摘除術ではなく腎部分切除術が推奨されています。また 4cm から 7cm の腎細胞癌にも適応が拡大されつつあります。腎悪性腫瘍も同じです。さらに、手術も開腹手術から腹腔鏡手術へ移行し、低侵襲化が進んでいます。以下に腎摘除術と腎部分切除術、および開腹手術と腹腔鏡手術の比較を示します。

 
腎摘除術
腎部分切除術
 
ステージが同じなら再発率、生存率は同じ
 
出血量、入院期間も同じ、手術時間は部分切除が長い
問題点
<腎機能障害>
単腎になると5年後には15%-22%腎機能が悪化するといわれている。
(クレアチニンが 2.0 以上になる)
腎障害から心血管系疾患などの他因死が多くなる
<残存腎への再発>
1%以下と報告されているが可能性あり、
切除断端陽性や腎がんのタイプによっては再発のリスクが高くなる
<腎摘には無い合併症>
切除部位からの出血・尿漏、仮性動脈瘤など
腎動脈を一時的に遮断するため腎機能が回復しない可能性あり
 
開腹
腹腔鏡
開腹
腹腔鏡
長所
大きな腫瘍で合併切除が
必要な場合にも対応可能
傷が小さい(術後の痛みが少ない)
拡大された視野で手術が可能
出血が少ない
従来からの方法
腫瘍がどこにあっても可能
傷が小さい(ポートの傷のみ)
拡大された視野で手術が可能、
全員がモニターで同じ視野を共有できる
短所
傷が大きい(術後疼痛あり)
術後の回復がおそい
大出血・癒着による合併切除など
不測の事態には対応困難
ポート部再発の可能性あり
傷が大きい(術後疼痛あり)
術後の回復がおそい
腫瘍が埋没している場合には困難
ポート部再発の可能性あり

腎部分切除術の評価指標として、①温阻血時間25分以内(腎動脈の遮断時間)、②切除断端陰性(切除面に癌が露出していないこと)、③術後合併症なし、の3つがあげられます。この指標は100%であることが望まれますが、腹腔鏡手術の全国集計では25%の達成率にとどまっています(国内54施設約1400例のデータ)。この中で最も達成が困難なのが温阻血時間25分以内で、腹腔鏡ではどうしても手術操作に制限が加わるため、開腹手術に比べ温阻血時間が長くなる傾向にありました。この欠点を解決するために、ロボット支援腹腔鏡下腎部分切除術が認められ2016年4月から保険収載されることになりました。

手術方法

①横向きの体勢で(患側が上)手術を行います。

②5-12mm の穴(ポート)を 4-5 箇所あけ手術を開始します。ロボットが 3-4 個、助手が 1-2 個のポートを使用します。

③腎を周囲組織から注意深く剥がしていき、腎動脈と腎静脈をみつけます。さらに腫瘍を確認し、切除しやすいように腎周囲を剥がします。

④腎動脈を遮断し腎臓への血液の流れを遮断(温阻血)し、腫瘍を切除します。(下図)

⑤腫瘍が切除された腎臓を特殊な糸で縫い合わせ、止血縫合をします。腎からの出血予防のために、縫い合わせたところに人工接着剤と止血用綿花を使用します。(下図)電気メスで十分な止血が得られた場合には縫合しないこともあります。

⑥腎血流を再開します。腎臓からの出血がないことを確認し、手術部位に細い管(ドレーン)を入れて手術を終了します。

合併症について

ロボット支援手術と腹腔鏡手術を比較した場合、その合併症の比率にはほとんど差がないとされます。最近報告された 2240 例の検討で、合併症の頻度や合併症の治療内容には差がなく、手術時間、出血量、クレアチニンの変化(腎機能の指標)、切除断端陽性率にも差がありませんでした。ロボット支援手術が勝っていたのは、温阻血時間、開腹への移行率、腎摘への移行率、糸球体ろ過率の変化(腎機能の正確な指標)、入院期間でした。つまり、ロボット支援手術により合併症を増加させることなく温阻血時間を短縮することが可能になりました。
一般的な合併症として次のようなことがあげられます。ただしこのような合併症が起こらないよう手術時および術後には十分な注意を払います。

1.出血
腎血管から予期せぬ出血が起こると大出血につながります。このような場合、輸血が必要になったり、開腹手術への移行が必要になったりします(輸血率は 5%~7%、開腹移行は 4%程度です)。また、手術後しばらくしてから再出血することもあります(後出血)。
2.腎摘に変更
出血のコントロールができない場合や腎血流が回復しない(極端に血流が悪いと手術中でもわかります)場合などには途中で腎摘除術に変更します(1%程度)。
3.尿漏
腎の縫合部から尿が漏れ出すことがあります。手術中や直後には問題なくても数日後にわかることもあります。この場合、ステント(膀胱から腎に入れる細い管)を挿入し漏れが治るまでまつ事が必要になります。漏れの程度によっては再手術になることもあります(3%~6%程度)。
4.肺塞栓
手術中や術後は血栓(血のかたまり)ができやすくなります。この血栓が肺に流れて詰まってしまうのが肺塞栓です。大きな血栓では呼吸ができなくなり、死に直結します。このため、血栓予防として足に血液循環をよくする機械を装着します。ただし 100%の予防効果はありません。早期離床が大事です。ロボット支援手術をはじめ腹腔鏡手術では気腹(おなかに二酸化炭素を入れてふくらます)するため、血栓ができやすくなるのではと心配されていましたが、統計上差はありません。
5.感染
手術部位の感染(腹膜炎)、術後肺炎など
6.腸閉塞
術後腸の動きが悪くなって腸閉塞になることがあります。腸の癒着を防ぐためにも早期離床が大事です。
7.腎機能障害
腎部分切除術でも 5 年後には腎機能が悪化するという報告もあります。ただその頻度は、腎摘の 15%~22%に比べると低く、0%~12%です。手術時には腎動脈を遮断しますが、何らかの原因で遮断時間が長くなると腎機能に影響します。
8.合併切除・臓器損傷
手術中に癒着(がんが周囲とくっついている)があると周囲臓器(腸・膵臓・脾臓など)を一緒に摘出する必要があります。また、手術時の操作により周囲臓器に損傷が起こったときも同様です。ロボット支援手術でこのようなことが起こると開腹手術に移行します。
9.気胸
臓器損傷の一つですが、横隔膜が損傷を受けると気胸(肺がふくらまなくなる)になります。このときは肺をふくらますために肺にチューブが入ります。
10.空気塞栓
ロボット支援手術を行う場合、二酸化炭素を使用して手術操作がしやすいようにスペースを作るのですが、この二酸化炭素が血管内に大量に入り空気の栓ができてしまうことです。腹腔鏡手術での報告はありますが、今までに経験したことはありません。
11.仮性動脈瘤など
再出血や再手術率は腎摘に比べ多く、仮性動脈瘤など腎摘には無い合併症があり、合併症は腎摘に比べると多いです(6%~20%)。術後血尿や突然の腰痛出現時などには注意が必要です。

補足 2)転移巣切除と経皮的局所療法について

腎がんでは転移部位を手術で切除することがあります。一般にがんが転移すると手術は行われませんが、腎がんの場合、転移巣に対しても、手術を第一に考えます。全身状態が良好で転移巣が切除可能な場合には、手術により転移巣を切除することで生存期間の延長が期待され推奨されています。しかしこれは後述するインターフェロンしかなかった時代の結果で、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬が使用できるようになった現在の状況ではまだ証拠は不十分です。今後徐々に明らかにされてくるものと思われます。

腎がんは、進行してくると静脈内に腫瘍塞栓を形成することがあります。腎静脈から下大静脈や心臓まで広がる場合もあります。このような場合でもリンパ節などに転移を認めない場合には、手術により生存率の延長が期待されるため全身状態が良好であれば手術をします。
しかし、腫瘍塞栓の程度に応じて血行バイパス術の併用や人工心肺装置の使用が必要となり、術中の侵襲や危険性が高くなるため、手術適応には慎重な判断が必要となります。

腎がんの治療は手術が中心になりますが、全身状態により手術が困難な場合や、手術を拒否した場合などに低侵襲な経皮的局所療法が考慮されることがあります。経皮的局所療法には、ラジオ波焼灼術(RFA: radiofrequency ablation)と凍結療法があります。ラジオ波焼灼術はラジオ波を用いて腫瘍を高温にすることで、凍結療法は逆に低温にすることでがん細胞を破壊します。これらの治療は当院では行っていないため、他院へ紹介することになります。

薬物療法

近年、がん細胞と正常細胞の構造の違いやがん細胞の増殖のパターンなどが徐々に明らかとなってきています。がん細胞において、その特徴となっている部分、すなわち増殖や進行に関係する分子をターゲットにして開発されたのが分子標的薬です。理論的には、がん細胞にだけ作用して、正常細胞への影響は少ないはずです。しかしながら、実際にはこれまでに無かったような副作用が出現し、中には重篤な副作用も発症することがわかりました。
2008年に分子標的薬が本邦でも認可されましたが、それまで転移のある腎がんの治療は、インターフェロンなどの免疫療法しかありませんでした。免疫療法の有効率は低く、生存に関する有益性も少ないままでしたので、分子標的薬の出現により転移のある腎がんの治療は大きく様変わりしました。現在腎がんに対しては 6 種類の分子標的薬が使用可能です。

また、がんと免疫に関する研究がすすみ、これまでとは異なる作用を持つ免疫療法が開発されました。その新しい免疫療法は「免疫チェックポイント阻害薬」を用いた治療です。免疫チェックポイント阻害薬は腎癌に対して 2016 年 8 月より本邦でも認可されました。がん細胞は免疫の攻撃対象になることを防ぐための機能を持っておりがん細胞は免疫の働きにブレーキをかけてその攻撃から逃れています。従来の免疫療法は患者さん自身の免疫の力を高める療法で車の運転にたとえるとアクセルをさらに踏む治療法といえます。「免疫チェックポイント阻害療法」はがんによってかけられたブレーキを外すことで患者さん自身の免疫機能を回復させて、がん細胞への攻撃力を高める新しい治療法です。

ニボルマブ(オプジーボ)は「PD-1」、イピリムマブ(ヤーボイ)は「CTLA-4」と呼ばれる T 細胞のアンテナにそれぞれ結びつくことで、免疫の抑制信号をブロックし、免疫のブレーキを外します。これにより T 細胞は、妨害を受けることなく、がん細胞を攻撃できるようになります。併用療法は、2 種類の免疫チェックポイント阻害薬を組み合わせることで、がんに対する攻撃力をさらに高め、より効果的な治療を行うために用いられます。
新規薬剤は、大規模な臨床試験において従来の治療と比較し有用性が確認されてから許可されます。たとえば、下記の表において、ネクサバールはサイトカイン(免疫療法)治療歴のある人に使用され、コントロール薬である偽薬(プラセボ)を内服した人に比べ有用性が認められたので使用できるようになりました。

分子標的薬
コントロール薬
奏功率
無増悪生存期間中央値
(コントロール薬との差)
生存期間中央値
(コントロール薬との差)
ネクサバール
プラセボ
10%
5.5ヶ月(2.7ヶ月)
17.8ヶ月(なし)
スーテント
インターフェロン
47%
11.0ヶ月(5.9ヶ月)
26.4ヶ月(なし)
アフィニトール
プラセボ
1%
4.0ヶ月(2.1ヶ月)
未達
トーリセル
インターフェロン
8.6%
3.8ヶ月(1.9ヶ月)
10.9ヶ月(3.6ヶ月)
インライタ
ネクサバール
19.6%
8.3ヶ月(2.6ヶ月)
20.1ヶ月(なし)
ヴォトリエント
スーテント
31%
8.4ヶ月(なし)
28.3ヶ月(なし)
オプジーボ
アフィニトール
25.1%
4.6 ヶ月(なし)
25.0ヶ月(5.4ヶ月)
ヤーボイ+オプジーボ
スーテント
41.6%
11.6 ヶ月(3.2 ヶ月)
未達

奏功率:腫瘍が 30%以上縮小する
無増悪生存期間:腫瘍が悪化せず、薬の効果がある期間

この表を見るとスーテントの有効率が最も高いように思えますが、そうではありません。これら6種類の薬剤を直接比較した臨床試験はありませんし、対象患者が違うため、有効率の比較を直接することが出来ません。

各薬剤について簡単に説明します。

ネクサバール

ネクサバールは内服薬で毎日内服します。
サイトカイン(インターフェロンなど)の治療歴のある人に対して試験がなされました。
ネクサバールと比較された薬はプラセボ(偽薬で薬ではありません)です。
奏功率は10%でした。
無増悪生存期間はネクサバールで5.5ヶ月、対照薬が2.7ヶ月でネクサバールの方が延長しました。
生存期間には差はありませんでした。
副作用は、手足症候群、高血圧、肝機能異常などが主なものです。
日本ではこの薬が一番に認可されました。

スーテント

スーテントは内服薬で通常4週内服し2週間休薬します。副作用のため内服期間を短くすることもあります。
何の治療も受けていない人に対して試験がなされました。
対照薬はインターフェロンです。
奏功率は47%です(インターフェロンは12%)。
スーテントの無増悪生存期間は11ヶ月でインターフェロンに比べ有意に延長しました。
生存期間はスーテントで26.4ヶ月、インターフェロンで21.8ヶ月とスーテントが若干延長していますが、有意差はありません。
重篤な副作用は高血圧12%、倦怠感11%、下痢9%、手足症候群9%です。
重篤な血液毒性、好中球減少は15%、血小板減少は8%と報告されていますが、日本人の副作用の頻度はかなり高く、好中球減少が51%、血小板減少が55%と報告されています。また甲状腺機能低下も22%に見られます。

アフィニトール

アフィニトールは内服薬で毎日内服します。
ネクサバールやスーテントの治療後の再発症例に対して試験がなされました。
対照薬はプラセボ(偽薬)です。
奏功率は1%、無増悪生存期間はアフィニトールで4.6ヶ月、プラセボで1.8ヶ月、アフィニトールが良い結果でした。
副作用は胃炎、倦怠感、貧血が主なものです。

トーリセル

トーリセルは注射薬で、1週間に1度点滴で治療します。
高リスクグループで治療を受けていない人を対象に試験がなされました。
対照薬はインターフェロンです。
奏功率は8.6%、無増悪生存期間は3.8ヶ月で対照薬のインターフェロンより有意に延長しました。
全生存期間も有意に延長しました(10.9ヵ月 vs 7.3ヵ月)。
主な副作用は発疹、口内炎、高血糖などです。

インライタ

インライタは内服薬で毎日内服します。
インターフェロンやスーテントなどの治療歴がある人を対象に試験がなされました。
対照薬はネクサバールです。
奏功率はインライタで19.6%、ネクサバールで9.2%でした。
無増悪生存期間はインライタで6.8ヵ月、ネクサバールで4.7ヵ月であり、インライタ群が良い結果でした。
全生存期間には差はありませんでした。
主な副作用は、高血圧、手足症候群、発声障害、蛋白尿でした。

ヴォトリエント

ヴォトリエントは内服薬で毎日内服します。
何の治療も受けていない人を対象に試験がなされました。
対照薬はスーテントです。
奏功率はヴォトリエントで高く、統計学的に有意差が認められました。(ヴォトリエントで31%、スーテントで25%)
無増悪生存期間はヴォトリエントで8.4ヵ月、スーテントで9.5ヵ月で有意差はありません。
全生存期間はヴォトリエントで28.3ヵ月、スーテントで29.1ヵ月で有意差はありません。
主な副作用は、下痢53.4%、高血圧42.8%、疲労38.4%、肝機能障害35.1%、悪心33.9%、毛髪変色32.9%、食欲減退28.9%、味覚異常21.8%、嘔吐21.4%、手掌・足底発赤知覚不全症候群20.7%でした。

オプジーボ

オプジーボは注射薬で2週間に1度点滴で治療します。
分子標的薬を2剤以内使用かつ合計3種類以下の薬物治療をうけられた人に対して試験がなされました。
対照薬はアフィニトールです。
奏功率はオプジーボで高く、統計学的に有意差が認められました(オプジーボで25.1%、アフィニトールで5.4%)。
無増悪生存期間はオプジーボの 4.6 ヶ月、アフィニトールの 4.4 ヶ月で有意差はありません。
全生存期間はオプジーボで高く、統計学的に有意差が認められました(オプジーボで25.0ヶ月、アフィニトールで 19.6ヶ月)。
自己免疫疾患(例えば、1型糖尿病や関節リウマチなど)や間質性肺疾患の既往のある方は治療を受けられないことがあります。
主な副作用は、疲労33.0%、掻痒症14.0%、悪心14.0%、下痢12.3%、食欲減退 11.8%、発疹10.1%でした。
頻度はまれですが注意を要する副作用として肺、肝臓、腎臓、膵臓、副腎、皮膚、消化管、脳、神経などに対する過剰免疫反応が起こる可能性があります。これは免疫関連有害事象と呼ばれ重症筋無力症、1型糖尿病、脳炎、中毒性表皮壊死融解症、皮膚粘膜眼症候群などの報告があります。いずれも頻度は不明です。

ヤーボイ+オプジーボ

はじめヤーボイ1mg/kg(体重)とオプジーボ240mgを3週間間隔で4回点滴します。その後、オプジーボ240mgのみを2週間間隔で点滴します。
国際共同第Ⅲ相試験(CheckMate214試験)ではこの治療法(425例)と標準治療のスニチニブ内服治療(422例)が比較され、12か月時点および18か月時点の生存率は、ニボルマブ+イピリムマブ併用群でそれぞれ80%、75%、スニチニブ群で72%、60%で有意に併用群が良好でした。
奏効率は併用群で41.6%、スニチニブ群で26.5%と有意に併用群で良好でした。また、完全奏功は併用群で9%、スニチニブ群で1%と有意に併用群で良好でした。
健康関連のQOLの比較でも全治療期間で併用群が良好でした。
主な副作用は、疲労36.9%、そう痒症28.2%、下痢26.5%、発疹21.6%、悪心19.9%、リパーゼ増加16.5%、甲状腺機能低下症15.5%。
重篤な副作用が29.6%に認められました。頻度の高いものは下痢3.8%、肺臓炎2.7%、下垂体炎2.4%でした。
投与中止に至った副作用は21.6%に認められ、ALT(肝機能)増加2.7%、下痢2.6%、AST(肝機能)増加2.2%、肺臓炎2.0%でした。
その他の重篤な副作用として、以下のものが報告されています(悪性黒色腫の試験を含む)。間質性肺疾患6.9%。重症筋無力症0.1%、心筋炎0.1%、筋炎0.6%、横紋筋融解症0.1%。大腸炎7.0%、重度の下痢6.0%。1型糖尿病0.6%。免疫性血小板減少性紫斑病:頻度不明。肝機能障害4.7%、肝炎2.4%、硬化性胆管炎:頻度不明。甲状腺機能低下症16.2%、甲状腺機能亢進症10.7%、甲状腺炎3.7%。末梢性ニューロパチー3.1%、多発ニューロパチー0.3%、ギランバレー症候群0.1%。腎不全1.8%、尿細管間質性腎炎0.2%。副腎機能不全4.9%。脳炎0.1%、中毒性表皮融解壊死症:頻度不明、皮膚粘膜眼症候群0.1%、類天疱瘡0.1%、多形紅斑0.2%。深部静脈血栓症0.3%、肺塞栓症0.1%。Infusion reaction(急性輸液反応)3.9%。
免疫に関連した副作用として間質性肺疾患、重症筋無力症、大腸炎、肝炎、筋炎、1型糖尿病、内分泌機能障害(甲状腺機能異常、副腎機能異常など)、腎炎、発疹、乾癬、脳炎、神経障害などが報告されております。これらは投与終了後、数週間から数か月経過してから発現することもあります。

補足)免疫チェックポイント阻害薬での有害事象に対する対応方法

免疫反応に関連した中程度以上の副作用が発現した場合、副腎皮質ステロイドホルモン剤による治療が必要になる場合があります。また症状が回復しない場合、症状の再燃を防ぐため、1か月以上かけて副腎皮質ステロイドホルモン剤を減量していきますが、長期間にわたり投与が必要な場合もあります。また症状が残存し持続する(後遺症)可能性もあります。さらに、副腎皮質ステロイド剤投与によっても症状の改善が認められない場合には、他の免疫抑制剤等の追加が必要になる場合もあります。

また、これらの副腎皮質ステロイド剤や免疫抑制剤を長期間投与しなくてはならない場合、免疫力低下に伴い感染症を起こすリスクが上昇したり、その他副腎皮質ステロイド剤の長期投与により、糖尿病、胃潰瘍、筋力低下、肥満、骨粗しょう症、皮膚萎縮、白内障、不眠などの精神症状のリスクが上昇したりする可能性があります。これら以外にも全身にさまざまな副作用が起こる可能性があります。また、これら副作用が重症の場合には、生命に危険が及ぶことや後遺症となって永続的に残ることもあります。その都度、提供可能な範囲での適切な治療を致します。

以下の表に各薬剤の副作用をまとめました。これ以外にも頻度の少ないものが数多くあります。

薬剤
頻度の高いもの(10%以上)
重篤なもの(G3 で 5%以上)
ネクサバール
手足症候群 57%、高血圧 34%、下痢 19%、脱毛 17%、
アミラーゼ 14%、発疹 14%、肝機能異常 11%
手足症候群、肝機能異常
スーテント
血小板減少 61%、手足症候群 37%、甲状腺機能低下 36%、
高血圧 35%、白血球減少 33%
血小板減少、白血球減少、高血圧、
手足症候群
アフィニトール
口内炎 44%、発疹 30%、貧血 28%、疲労 25%、下痢 24%
間質性肺炎、高血糖、貧血
トーリセル
発疹 59%、口内炎 57%、コレステロール 43%、食欲不振 37%、
高血糖 32%
高血糖、口内炎、間質性肺炎、
感染症、胸水
インライタ
高血圧 76%、手足症候群 71%、下痢 63%、発声障害 55%、疲労 53%、
蛋白尿 40%、甲状腺機能低下 39%、口内炎 32%
高血圧、手足症候群、疲労、
蛋白尿、食欲不振
ヴォトリエント
下痢 53.4%、高血圧 42.8%、疲労 38.4%、肝機能障害 35.1%、
悪心 33.9%、毛髪変色 32.9%、食欲不振 28.9%、味覚異常 21.8%、
手足症候群 20.7%
高血圧、肝障害、疲労、下痢、
手足症候群
オプジーボ
疲労 33%、掻痒症 14%、悪心 14%、下痢 12%、食欲減退 12%、
発疹 10%
なし
※免疫関連有害事象に注意必要
ヤーボイ+オプジーボ
疲労 36.9%、そう痒症 28.2%、下痢26.5%、発疹 21.6%、悪心 19.9%、
リパーゼ増加 16.5%、甲状腺機能低下症 15.5%
間質性肺疾患、大腸炎、下痢、
甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症

以上のように、各薬剤にはそれぞれ特徴があり、また出現する副作用も違います。また、欧米人と日本人とで副作用の出現率が異なることにも注意が必要です。

その他

免疫チェックポイント阻害薬が登場するまで、インターフェロン(IFN)とインターロイキン-2(IL-2)による治療が免疫療法と呼ばれていました。これらの治療の奏功率は15%前後で、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の登場により現在ではほとんど使用されなくなりました。しかし、日本人は欧米人と比べインターフェロンの効果が高く、特に、肺転移に対しては有用とされています。

転移性腎がんに対する免疫療法の奏効率について表にまとめました。

種類
症例数(例)
奏効率(%)
生存期間
無増悪生存期間
IFNα単独
(2002年報告)
463
11
13ヶ月
4.7ヶ月
IL-2単独
(1997年報告)
1712
15.4
IFNα+IL-2併用
1411
20.6
日本(IFNα + IL-2併用)
42
35.7
未達
10.4ヶ月

この表からわかるように、インターフェロンやインターロイキンによる治療は分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬より明らかに有効性は劣ります。そのため、これら薬剤の使用は限られています。

費用について

薬は非常に高額です。各薬剤を1ヶ月間スケジュール通り治療した場合の費用をお示しします。実際の支払いは保険の種類によって異なります(1割-3割)。薬物治療はいずれも現在の医療保険で腎がんの患者さんに対して適応が認められており、治療にかかる一切の費用は医療保険制度に添って請求と支払がなされます。高額な医療費に対しては高額療養費制度があります。詳細につきましては、がん相談支援センターにお問い合わせ下さい。

1ヶ月あたりの治療日数
1ヶ月の内服期間あるいは点滴回数
1ヶ月の薬剤金額
ネクサバール
30日
約55万円
スーテント
28日
約80万円
アフィニトール
30日
約76万円
トーリセル
4回
約53万円
インライタ
30日
約55万円
ヴォトリエント
30日
約50万円
オプジーボ
2回
約84万円
ヤ-ボイ+オプジーボ
ヤーボイ(1回)
オプジーボ(1回)
約49万円
約42万円